作家でコラムニストの亀和田武氏は、週刊朝日で連載中の『マガジンの虎』で、「ビッグコミックオリジナル」を取り上げた。いよいよ最終回を迎えるジョージ秋山の『浮浪雲』だけでなく、亀和田が高く評価する作品とは?
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ジョージ秋山の『浮浪雲』が最終回を迎える。「ビッグコミックオリジナル」(小学館)で連載を開始したのが73年だ。町娘たちに「おねえちゃん、あちきと遊ばない?」と声をかけて飄々と生きていたら、44年がたった。
少年マンガ誌に『銭ゲバ』や『アシュラ』といった世間の常識に挑戦する作品を発表したのが70年だ。その作者が一転して、品川宿で欲も野心も持たずに、酒と女の日々を送る魅力的な男を、青年コミック誌に描いた。
食堂や喫茶店で毎号、楽しく読んだ。「あちきと遊ばない?」といってるだけで、街で一番の人気者なんて、羨ましいったらない。渡哲也が主演したドラマもヒットした。
でも、ここしばらくの浮浪雲は、様子が変だった。最新の9月20日号でも、人の気配がない品川の海を眺めてるばかり。歳とって元気がないのか、達観したのか。最終回は作者の言葉ものる。浮浪雲の胸中がわかるかもね。
『浮浪雲』の対極をいく、エッジの利いたマンガも、「オリジナル」には何作ものっている。なかでも伊藤潤二の『人間失格』の衝撃力といったらない。太宰治の小説って、こんな話だったっけ。「既に自分は、女中や下男から、哀しい事を教えられ、犯されていました」。こんな一行が、マンガでは卑猥さたっぷりに描かれる。醜い女中に「坊っちゃまは本当に可愛い」と犯されるシーンは、超エロいだけでなく、人間の業がムキ出しになって怖いほどだ。
太宰治の小説も夢中になって再読したが、伊藤潤二のグロテスクな画風と、鋭く、いびつな感性も凄まじい。良心的な政治やモラルをあざ笑う、文句なしの反社会的な作品だ。必読。
※週刊朝日 2017年9月29日号