成果をあげれば、十分な報酬を出す。そうしないと従業員はみな辞め、操業停止に追い込まれるからだ。そうなれば株価も落ちる。

 転職市場が発達していれば、退職は怖くない。労働需要は日本全体で一定のはずだから、一人辞めれば一人の需要が生まれる。経済を活性化させて失業率をゼロ近くにしておくことが、政府の大切な仕事になる。

 ところで、私が日銀OBと話をすると、黒田東彦総裁の異次元の量的緩和に、みんな非難ごうごうだ。しかし、現役職員はこうした批判の声をあげられない。心の中で「まずい」と思っても、声を出せないのだろう。中央銀行マンの矜持はいずこにと思ってしまうが、これも終身雇用制の弊害なのかもしれない。

 クビを切られたり、閑職に追いやられたり、定年後の仕事の斡旋がなければ、生活のめどを失う。転職市場が米国ほど発達していない日本では、非常に怖い話だろう。終身雇用制が、国の基幹政策さえも誤らせているのかもしれない。

 官僚が政治家にペコペコし、企業が監督官庁に弱く、政治家が有権者に弱いのも、仕事を失うのが怖いからだろう。次の仕事が簡単に見つかるなら、辞める自由が出る。言いたいこと、正しいと信じることを自由に言えると思うのだが。

週刊朝日  2017年9月29日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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