政府が次の臨時国会の目玉として挙げた「働き方改革」。“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、終身雇用制が、国の基幹政策さえも誤らせているのではと危惧する。
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モルガン銀行時代、会社から勤務希望地の調査が来たので、秘書に「◯をつけてそのまま返信して」と頼んだ。私が邦銀から米銀に転職した理由を「ずっと東京で働きたいから」と、秘書は知っていた。だから、返信シートをチェックする必要はないと思っていた。
ところが、秘書の机にあった提出前の返信シートを見ると、希望地欄で東京の下の行にあった中近東に◯が。米銀は希望していない地に転勤を無理強いしないが、希望すれば即異動の可能性が高い。おー、やべー!
偶然見つけてよかったが、あの時サウジアラビアに行っていたかも。単身赴任のうえ大好きな酒も飲めない。最悪だった。秘書は偶然間違えたのか、意図的だったのか。もしかして、嫌なボスを中近東に追いやり、最高の「働き方改革」を試みようとしたのか。
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当コラムで以前、日本の労働分配率の低さは終身雇用制のせいではないか?と書いた。
安倍首相が賃上げをいくら求めても、経営者が人材喪失のリスクを感じないと、賃上げのインセンティブが働かない。終身雇用で不況期でも従業員を解雇しにくければ、固定費化しやすい人件費をなるべく上げたくない。好況期であっても、不況期に備えようとするのは無理もないだろう。
人材獲得の競争が激しい新卒採用市場は、初任給がそれなりに上がった。労働市場が競争的ならば、賃金は上昇する。日本人は終身雇用という安定と引き換えに、高収入をギブアップしている気がしてならない。
政府は次の臨時国会の目玉として、「働き方改革」を挙げている。ただ、所得税の累進カーブの修正、終身雇用制と年功序列制の廃止を盛りこまないと、抜本的改革など無理なのだ。
米企業では、労働者全員が明日にでも解雇される恐れがあり、全員が非正規とも言える。望まない転勤を強いる企業はない。同一労働は同一賃金だ。