モントリオール 1982
モントリオール 1982
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カムバック・バンドによる充実のライヴ
Montreal 1982 / Miles Davis (Mega Disc)

 通称カムバック・バンドを聴いていると、マイルスがジャズから出発、しかしそのジャズからもっとも遠い地点に到達した瞬間に引退、やがて数年間の沈黙を破って復活したときにスックと立ったのが、意外にもというか当然のことながらというべきか、ジャズのど真ん中だったとの実感を強く抱く(この表現、わかります?)。もちろん、復活した1981年時点のジャズという意味ではなく、あくまでもマイルス的なるジャズ表現と領域、その極北に立ったように思う。たとえば『ウイ・ウォント・マイルス』や2種類・計4枚のCDに及ぶ「サヴォイ」でのライヴを聴けば、当時のマイルスにとってのジャズというものがどのようなものであったか、深い感動とともに理解できる。

 奇跡の復活から約1年後となる1982年のライヴも、『アット・モンマルトル』(『マイルスを聴け!V7』P574)あたりを頂点にそうとうに充実したブツが出揃っているが、このカナダはモントリオールにおけるライヴもまた、いまとなっては懐かしくもいとおしいカムバック・バンドの真価を記録した逸品としてコレクションに加えたい。しかも音質は最上級、なるほどラジオ放送用にレコーディングされただけのことはある。ただしジャケットは日本ツアー時(1981年)のもので、アル・フォスター(ドラムス)に支えられながら観客に弱々しく手を振るマイルスの姿が痛々しい。

 しかしジャケットに騙されてはいけない。1曲目《バック・シート・ベティ》冒頭における"ジャーン"の連発は"ジャケ買い"などというものが愚の骨頂であることを高らかに宣告、さらにマイルスが"ピューヒャッ"と鋭いマイルストーンを天空高く放ち、「そうそう、これぞカムバック・バンド」との興奮と熱波を運んでくる。飽きるほど演奏していた曲であるにもかかわらず、マイルスが新しいフレーズを放射しているところに素直に驚く。ミストーンもなく、すべての音ははるか未来に向かっているよう。マーカス・ミラーの粒立ちの整ったベース、ミノ・シネルの健全なパーカッションがクリアに響き、なるほどヘルシー時代のマイルスをがっしり支える屋台骨。つづくマイク・スターンのエレキはややマンネリ気味だが、それを承知で飛ばす潔さがすがすがしい。《マイ・マンズ・ゴーン・ナウ》、マーカスが前曲からメドレーで突入、しかしマイルスが"ピーヒャー"と降臨、あの必殺のメロディーを吹き放つ。今夜の聴きものは《アイーダ》か。テーマを削除してスターンが突撃、その後はミュート主体のフォービートと、これはかなりレアなヴァージョン。

【収録曲一覧】
1.Back Seat Betty
2.My Man's Gone Now
3.Aida
4.Jean Pierre

Miles Davis (tp, key) Bill Evans (ss, ts, fl) Mike Stern (elg) Marcus Miller (elb) Al Foster (ds) Mino Cinelu (per)

1982/7/11 (Montreal)