シンディ・ローパー《タイム・アフター・タイム》の初期ヴァージョン収録
Complete Hollywood 1984 (Mega Disc)
サックス奏者ボブ・バーグがマイルス・バンドに参加したのは1984年5月のこと。この4枚組CDには、そのバーグ参加直後の演奏が収録されている。時系列としては当ライヴ(と6月1日のサンカルロス公演)が先、次に『ユアー・アンダー・アレスト』のバーグ参加12月録音3曲(1,8,9)という順。ちなみにこのCDに収録されているのは、ハリウッドはビヴァリー・シアターにおけるライヴ。
CD1枚目と2枚目がファースト、3枚目と4枚目がセカンド・コンサートとなり、曲順も含めてレパートリーに変化はない。さらに説明を加えれば、この日のライヴ、ファースト・コンサートのみクール・ジャズ盤『ハリウッド1984』(マイルスを聴けV7:P640)として出ていたが、このメガ・ディスク盤は同作を含めた4枚組、そもそも最上級の音質(オーディエンス録音&ステレオ)だけに、これから入手を考えている人は、えーい、いっきにこの4枚組、いかがでしょう。というのも例によって後半(セカンド)のほうが熱く、燃えている。
まずはファースト・コンサートから。最初の"ジャーン"がおもしろい。いつものようにかますが、マイルス、気に入らなかったのだろう、もっかい"ジャーン"をかまし直し、一気呵成に突っ走っていく(5.のイントロも同様にくり返している)。その《スピーク》からマイルスの矢のように鋭いハイノートが四方八方に飛び散り、参加したばかりのバーグが完璧にテーマを合奏、そこからソプラノ・サックスで流れるようなソロに入る。とりあえずこの時点でバーグのサウンドはマイルスが狙っていた方向性と見事に合致していた。ところでシンディ・ローパーのカヴァー《タイム・アフター・タイム》が録音されたのはこの年の1月26日、ライヴにおける初演は6月1日のサンカルロスというわけで、ここに収録されている2ヴァージョンが2回目ならびに3回目のライヴということになる。ロバート・アーヴィングがシンセなサウンドを敷き詰め、マイルスがストレートにテーマを吹く。観客の一部が気づいてどよめくが、じっくりと聴く態勢に入り、ちょっと異常な緊張感をともなった時間が訪れる。厳密な意味では初演ではないが、これぞ《タイム・アフター・タイム》ライヴ・ヴァージョン誕生の瞬間と言い切ってもいいだろう。CD3・4枚目に収録されたセカンド・コンサートは、このファーストに関する文章の体温が数度上昇したようなものと理解していただきたい。それにしてもアンコールを飾る《デコイ》というのは、じつにかっこいい曲だなあ。永遠に聴いていたいと思ってしまう。
【収録曲一覧】
Disc 1
1.Speak / That's What Happened
2.Star People
3.What It Is
4.It Gets Better
Disc 2
1.Something's On Your Mind
2.Time After Time
3.Hopscotch
4.Star On Cicely
5.Jean Pierre
6.Decoy
Disc 3
1-4:same as Disc 1.
Disc 4
1-6:same as Disc 2.
Miles Davis (tp, key) Bob Berg (ss, ts) John Scofield (elg) Robert Irving
(synth) Darryl Jones (elb) Al Foster (ds) Steve Thornton (per)
1984/6/2 (LA)
Disc 1&2;First concert.
Disc 3&4:Second concert.