ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「斉藤由貴」を取り上げる。
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元SPEEDの不倫スキャンダル。あらゆる要素がベタ過ぎて、面白くもなんともありません。そもそも新幹線で寝ている人を勝手に写真撮るって、政治家だろうと元SPEEDだろうと、それこそが『一線を越えている』と思うんですけど。テレビや世間の反応も目論見通りで、もはや『笑っていいとも!』の観客状態。ある意味平和です。
そんな平和ボケに活を入れるべく、あのアイドルが久々にぶちかましてくれました。芝居も歌もスキャンダルも、あらゆる言動を『ひとり舞台化』してしまう鬼才・斉藤由貴です。ここ数年の驚異的な健在ぶりを見るにつけ、「このまま何事もなく終わるわけがない。だって斉藤由貴ですもの」と、密かに待ち続けていた私の目に狂いはなかったようです。先日の会見(『ひとり舞台~ザ・斉藤由貴III~』と命名)も素晴らしかった。
端から「お騒がせして申し訳ございません」などと謝罪するのは、今や猿でもできる芸当です。由貴ちゃんの場合「今回の騒動、いかがお感じですか?」と訊かれ、「なんて言うんでしょう? どうしてか毎回毎回、私という人間は。学ばないというか。情けないというか。私って甘いんでしょうか? 甘いんでしょうね、きっと」という自問自答の『ひとり反省会』になります。この付け入る隙のない自問自答によって、訊く側・観る側の構えた尺度や感情は、たんぽぽの綿毛の如く、白でも黒でもない場所に運ばれる。色恋なんて、はぐらかし・はぐらかされてナンボ。しかし今の御時世、答えと見做されない不明瞭さ・不親切さは、不誠実だと一刀両断されてしまい、本来『色っぽさ』の基本である、嘘や建前の裏に見え隠れする真実や本音を汲み取る感性が、どんどん失われつつあります。そしてそれは同時に、思いやりや気遣いの精神が衰退していることでもあります。余計な忖度は氾濫するばかりですが。
J−POPの歌詞もしかり、とにかく世の中『答えとハウツーと自己主張』だらけ。今一度、由貴ちゃんの名曲『卒業』を聞いてみて頂きたい。♪卒業しても友だちね それは嘘ではないけれど でも過ぎる季節に流されて 逢えないことも知っている♪ 他人に説明責任ばかりを求めていないで、この混沌・漠然とした自問自答力、もしくは自己解決力をもっと磨かないと。
だいたい、他人様の倫理をあれこれ言う前に、どうしてみんな歩きスマホをやめないかの方が不思議です。ここでは「だって、みんなやってるし」という自問自答が通用しているのですから。
※週刊朝日 2017年9月1日号