奇跡の復活~来日ライヴ幻の2日目
Second Night In West Park (Cool Jazz)
1981年6月、数年間にわたる沈黙を破って奇跡の復活をとげたマイルス(当時55歳)は、約4か月後の10月に来日を果たし、以下のスケジュールでツアーを行なう。すでに何度か書いてきたことだが、このツアーのギャラは70万ドル、つまり1公演につき10万ドルという破格のおもてなし。
現在の価値に置き換えれば、おそらく3億円くらい?
ともあれツアーは、10月2・3・4日=新宿西口広場(現在は都庁がある)、8日=東京中野サンプラザ、9日=名古屋市公会堂、10日=大阪プール特設会場(扇町)、11日=福岡サンパレス。そして音源的には、4日が『ライヴ・イン・ジャパン』として日本だけで発売されているのをはじめ、6日『アット・サンプラザ』、9日『ギヴ・ミー・Z』、11日『アット・フクオカ・サンパレス』と、計4公演分が日の目をみている。今回クール・ジャズから登場した『セカンド・ナイト・イン・ウエスト・パーク』は、2日目にあたる3日、新宿西口広場におけるライヴを収録したもの。
すでに発売されている中野サンプラザ、名古屋、福岡の各ライヴ盤は、公式盤『ライヴ・イン・ジャパン』が、このツアーにおける最悪の演奏を記録したトンデモ盤であるという事実を暴く結果を招いたが、この『セカンド・ナイト』は、その事実をさらに強固に塗り固める。ともあれ、これによって「4日が最低最悪の出来だったのではないか?」と、それでもまだ一部に残っていた疑問は完膚なきまでに破壊され、「やっぱりそうだったんだ!」との確信をあらためて抱かせる。くり返しておこう、公式盤『ライヴ・イン・ジャパン』は、公式でありながら、しかも他の日のライヴを収録~発売するチャンスがあったにもかかわらず、もっとも安直な手段によってアルバム化されたものにすぎない。「出しゃーいいんだろ」的かつ場当たり的ノリ一発で絶不調時のマイルスを"公式に"アルバム化した罪は大きい。建て前上とはいえ、アーティストを大切にしなければならないレコード会社にとって、もっとも避けるべき行為であることはいうまでもない。
いかんっ、怒っているうちに、ああ、スペースが。駆け足で行こう。ジャーン...がくるかと思いきやマイルスが軽くキーボードを押さえる音からはじまり、おお、ライヴはこうでなければの臨場感がうれしくも高揚感を覚える。気になる音質とバランスはオーディエンス録音ながら問題なく、リアルさにおいては公式盤をも超えて最上位に置かれるかものハイクオリティ。そしてそして驚くべきは、マイルスがしっかりと吹いていたこと。苦痛に耐えてプライドと70万ドルのために足を引きずりながらもトランペットを吹いていた痛々しい姿がいかにマイナス・イメージとして作用していたか、うーん、音楽は真実を物語る。その"真実"にこそ、じっくりと耳を傾けようではないか。
【収録曲一覧】
1. Back Seat Betty
2. My Man's Gone Now
3. Aida
4. Fat Time
5. Jean Pierre
Miles Davis (tp) Bill Evans (ss, ts, fl, key) Mike Stern (elg) Marcus Miller (elb) Al Foster (ds) Mino Cinelu (per)
1981/10/3 (Tokyo)