パリ1973:ロング・ヴァージョン
パリ1973:ロング・ヴァージョン
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「ついに出たっ!」って、ジャズ・マスターズ盤は便秘だったのか?
Paris 1973:Long Version (So What)

 まずは待望のロング・ヴァージョン登場に盛大な拍手を送りたい。さすがは老舗ソー・ホワット・レーベル、頼りにしていてよかったです。はてさてこの音源、もう何年もまえにジャズ・マスターズなるレーベルから『Palais Des Sports Paris 1973』という読みにくい・覚えにくいタイトルで出ることには出ていた。そして拙著『マイルスを聴け!』では、長く以下のような文章が冒頭を飾っていた。

 「73年マイルス・バンドの命はオープニング、アル・フォスター先発のバシャバシャ・シンバル連打。にもかかわらずこのブートCD、その肝心のアタマが欠けている。しかもかなり欠けている。というのもあの"パッパッパッ"という、マイルス~デイヴ・リーブマンのテーマ合奏もカット、いきなりギター・ソロから入ってくる。なんでこんな編集したのか。それともこのパート以前はテープ未収録だったか。そうとしか考えられない。かっこいいジャケットに期待は高まるが、うーん、これは痛い」

 ワタシがワルーございましたっ。今回のソー・ホワット盤には、その「そうとしか考えられない」と大言壮語していた"欠け"のいくつかが収録され、うーん、強気が売りのワタシとしては恥ずかしいではありませんか。しかーし、ここはひとつ、個人の名誉よりマイルス屈指のライヴがより完全なかたちで日の目をみたことを喜びたい。ちなみにジャズ・マスターズ盤は1枚物で約70分収録、それがこのSW盤では2枚組に拡張され、約90分にも達している。これはもうあなた、別物扱いすべき新発掘音源でしょう。音質、バランス面でもJM盤を上回り、こもり気味による欲求不満もようやくにして解消された。

 クライマックスは、当然のことながら新旧盤に関係なく、ラストの《カリプソ・フレリモ》。リーブマンのサックスの背後でうねり、勝手し放題のマイルスのオルガンがじつにもってク~ッ。ひょっとしてこの曲、マイルスがオルガンで遊ぶために用意されたのかも。トランペット・ソロも出るが、《カリプソ・フレリモ》でマイルスがノッているのはオルガンをグチャグチャ弾いているとき。それにしてもこの男、まったく自分のことしか考えていない。しかし、それでいいのだ、帝王なんだから。「もっとガンガン弾いてくれー」と思っていたら、「付き合ってられん」とリーブマンがフルートを持ち出す。怒るマイルス、9分前後から出るオルガン、なんと16秒間にわたる超過激な"グギャーン!"に身悶えしてほしい。

【収録曲一覧】
1.Turnaroundphrase (incomplete)
2.Tune In 5
3.Turnaroundphrase
4.Ife
5.Right Off
6.Prelude
7.For Dave
8.Tune In 5
9.Calypso Frelimo
(2 cd set)

Miles Davis (tp, org) Dave Liebman (ss, ts, fl) Pete Cosey (elg, per) Reggie Lucas (elg) Michael Henderson (elb) Al Foster (ds) Mtume (per)

1973/11/15 (Paris)

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