ルーズ・ユア・マインド・イン・ピッツバーグ
ルーズ・ユア・マインド・イン・ピッツバーグ
この記事の写真をすべて見る

「正気でいろよ!(Don't Loose Your Mind)」といわれても
Loose Your Mind In Pittsburgh (Sapodisk)

 タイトルにある"ルーズ・ユア・マインド"とは、11曲目に収録されているマーカス・ミラー作《ドント・ルーズ・ユア・マインド》に引っかけた言葉遊び(というのだろうか)。初演は『TUTU』、録音は1986年3月、そして『TUTU』の発売が同年の秋ということで、このライヴで演奏された時点では、《ドント・ルーズ~》をはじめ『TUTU』関係の曲はまだ誰も聴いたことがない新曲として登場したことになるが、以後どういうわけか《ドント・ルーズ~》が取り上げられることはほとんどなく、その意味では貴重。なるほどアルバム・タイトルに入れて強調したくなった気持ちもわかる。ちなみにマーカスは、ちょっと変わったタイトルをつけたことに対して、次のように語っている。「『TUTU』をつくっているとき、アルバムを聴いたら、みんなびっくりするだろうと思っていた。タイトル・ナンバーの《TUTU》、それから《ポーシア》も《スプラッチ》も自信作だった。だから最後まで"正気でいてくれよ"ってことで、こういうタイトルにしたんだ」

『TUTU』制作から5か月後の8月29日、ペンシルヴェニア州ピッツバーグにおけるライヴ。同時期のライヴとしては、16日が『コンコード1986』(Mega Disc)、31日が『イン・デトロイト』(同)として登場しているが、たしかにそれらに《ドント・ルーズ・ユア・マインド》は未収録、ただし『アット・ニューヨーク1986』(同)と企画盤『マイルス・アット・TV・パフォーマンシズ』(So What)には不完全版ながらも27日のライヴが収録され、どうやらそれが初演、したがって2日後にあたるピッツバーグは、同曲2回目のライヴということになる。なおこのライヴはメガディスクからもやや遅れて『Pittsburgh 1986』として登場、「うーん、またですかぁ」の様相を呈している。ただしメガディスク盤の6曲目《TUTU》はマイルスのソロ途中でフェイドアウトとなっている。ともあれ両盤とも驚きのサウンドボード/ステレオ録音&高音質で文句なし。

 さて主役の《ドント・ルーズ~》だが、オリジナルではマイケル・ウルバニアクのエレキ・ヴァイオリンが入っていたが(ちなみにウルバニアクの起用は、マーカスではなくマイルス自身が希望した)、ライヴではもちろんヴァイオリンはなし、その代用としてシンセが活躍、これはこれで味わい深い。そしてマイルスが吹く水銀のような音は"正気を失う"ほどのすばらしさ。さらに自動車が正面衝突したときのような効果音がかっこよく、この曲、もっとライヴでやってほしかったといまさらながら激しく思う。ロベン・フォードの乾いたギター・カッティングもじつにいい。音質と希少性で大推薦の2枚組。

【収録曲一覧】
1.One Phone Call / Street Scenes-Speak
2.Star People
3.Perfect Way
4.Human Nature
5.Wrinkle
6.Tutu
7.Splatch
8.Time After Time
9.Full Nelson
10.Carnival Time
11.Don't Loose Your Mind
12.Burn (2 cd)

Miles Davis (tp, key) Bob Berg (ss, ts) Robben Ford (elg) Robert Irving (synth) Adam Holzman (synth) Felton Crews (elb) Vincent Wilburn (ds) Steve Thornton (per)

1986/8/29 (Pittsburgh)