倉本さんは確定診断のために、圧迫された神経を打診する「ティネル徴候検査」や「ファーレンテスト」、神経伝導検査、超音波検査を受け、神経の障害の強さなどを調べた。その結果、手根管症候群と判明。ただ、神経の障害は軽度だったため、保存療法と手術の二つの治療法のうちの、保存療法をおこなうことになった。
倉本さんを診た三上医師はこう話す。
「神経伝導検査で正中神経の障害が軽度なら、まず保存療法をおこないます。約半数は保存療法で改善されるのではないかと思います」
保存療法では、手首を前後に曲げられないようにした装具をつけて、3カ月程度、安静を保つ。仕事や家事で昼間の装着が無理な場合は、夜間の装着だけでも効果が期待できる。
同時に、神経の再生をうながす作用があるビタミンB12製剤と、神経障害性疼痛治療薬のプレガバリンを服用する。
倉本さんは3カ月間、この保存療法をおこなったところ、痛みはなくなり、しびれもほとんど気にならなくなった。発症から2年たつ現在も症状はなく、ビタミンB12製剤を飲み続けている。少ししびれ感があると感じたら、早めに装具をつけてプレガバリンを服用し、自分でコントロールできているという。
装具と薬で改善が十分でない場合、局所麻酔薬とステロイド薬を混ぜたものを手根管内に注射する方法がある。50~80%の患者に、2~3カ月効くといわれるが、根治療法にはならない。
「ステロイド注射では腱を傷めたり感染したりする可能性があるので、慎重に検討します。2~3回やっても効果があまりみられないようなら、手術をおすすめしています」(三上医師)
手根管症候群のもう一つの治療法として手術がある。手根管にある屈筋支帯という、トンネルの屋根に当たる部分を切離して神経の圧迫を取り去る手根管開放術という手術だ。手根管開放術には、従来法と鏡視下手根管開放術の二つがあり、いずれも根治が望める。
従来法は皮膚を切開して屈筋支帯(くっきんしたい)を切離する。病院によっては全身麻酔であること、傷痕が3~4センチ残ること、残った傷痕が瘢痕となって、手をついたときなどに痛むことがデメリットとしてあげられる。また出血量が多いため強い駆血帯(止血のために腕に巻くバンド)を用いなければならず、人工透析を受けている人のシャントの障害になることも問題だった。