バードランド1950:コンプリート・トゥ・ディスク
この記事の写真をすべて見る

うれしいのかうれしくないのかよくわからない2枚組増量盤
Birdland 1950:Complete Two Disc (Mega Disc)

 そもそもは『ザ・ラスト・ビバップ・セッション』(JMY)として日の目を見たライヴ音源。それがリマスターされて『バードランド1950』(Mega Disc)となり、さらに同レーベルから完全版として新装登場したのがこの2枚組という三段階ブート活用の典型例。ただしクレジットは精度を欠き、別記が正しい(?)。チャビー・ニューサムというブルース・シンガーがいれば、ドラムスにはもうひとり、ロイ・ヘインズもいる(らしい)。とはいえ「これが完璧です!」と胸が張れるかといえばさにあらず、まずもって録音月日からして怪しい。おそらく「6月30日」だけでなく、その前後数日の演奏を集めたものだろう。またマイルスとファッツ・ナヴァロのソロに関しても諸説あり、チャビー・ニューサムの伴奏(6,7)をしているのはナヴァロではないかとする説もある。いいかえれば、その程度の音質であり、まあどちらがどちらでもいいのではないかと(おいおい)。

 では、どこがどうなって2枚組に出世したのか。従来のJMYおよびMD盤と比べてみよう。まず収録時間は前者が約75分、後者が2枚で約88分(39+49)、増加した曲は《セプテンバー・イン・ザ・レイン》《チャビーズ・ブルース》《フォー・ユー・マイ・ラヴ》の3曲。ただしマイルス的には増加の意味はなく、《セプテンバー・イン・ザ・レイン》にはマイルス不参加(?)、残る2曲はチャビー・ニュー・サムのヴォーカル曲であり、トランペットは聞こえるが、マイルスであれナヴァロであれ大差なく、冷たく結論を言い放てば、既発盤いずれかを所有している人にとってはこの2枚組、無用の長物か。

 演奏の大半は、マイルスとアート・ブレイキーのケンカみたいなもの。やり合ったかと思えばがっちり手を組み、双頭リーダー的立場でプッシュしていく。さらにいえば、これはほぼレギュラー化していたマイルス・カルテット(タッド・ダメロン、カーリー・ラッセル、ブレイキー)に、やりたい人間が勝手に入って勝手にやっただけのこと。しかし、そのあたりの時代的大雑把さがおもしろい。もっともマイルスはこの種のスタイルやレパートリーに飽き飽きしていたのだろう、つまりは古いタイプのミュージシャンを相手にすることに疲れていた。それを理解しているブレイキーとだけちゃんとやろう、そんな雰囲気がありあり。なおチャーリー・パーカーの音が聞こえるのは《コンセプション/デセプション》のエンディング・パートのみ。ファッツ・ナヴァロは、このライヴの1週間後(7月7日)、ドラッグの過剰摂取が原因で急逝する。享年26。

【収録曲一覧】
1 Band Warming Up
2 Wee (aka Allen's Alley)
3 Ow
4 September In The Rain
5 Embraceable You
6 Chubby's Blues
7 For You My Love
8 Max Is Making Wax
9 Hot House-52nd Street Theme
10 Conception/Deception
11 Eronel
12 52nd Street Theme
(2 cd)

Miles Davis (tp-out 4) Fats Navarro (tp-add 9~12) J.J. Johnson (tb) Charlie Parker (as-closing chorus of 10) Brew Moore (ts) Tadd Dameron (p) Walter Bishop (p-10~12) Curly Russell (b) Art Blakey (ds) Roy Haynes (ds-10~12) Chubby Newsome (vo-6,7)

1950/6/30 (NY)

[AERA最新号はこちら]