ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。AIによるニュース記事制作の最前線を解説する。
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インターネットの普及により、世界中で地方の話題を伝える「ローカルニュース」の衰退に拍車がかかっている。
米ニュース編集者協会によると、米国では2003年に新聞記者は5万4200人いたが、2014年にはこれが3万2900人と約4割も減った。経営難にあえぐ地方新聞は投資ファンドの格好の買収対象となっており、地方新聞全体の約3割が投機目的でそうしたファンドに所有されている状況だ。
米国と比べて新聞社が強い日本においても同様の状況は見て取れる。バブル経済が崩壊した90年代中盤以降、廃刊した地方紙の数は20近くにも及ぶ。
ネットが普及して情報が限りなく無料に近づいたことで、経済的に厳しい地方からローカルニュースが切り捨てられているのだ。
そんな中、通信社とネット企業が協力して、苦境にあえぐローカルニュースをAI(人工知能)で解決する取り組みが始まった。
プロジェクトを主導するのは、英国に拠点を置く大手ニュース通信社「Press Association」と英国の新興ネット企業「Urbs Media」。
企業の財務諸表やスポーツの結果などをAIに読み込ませることで、自動的に記事を生成し、配信する取り組みはワシントン・ポストやAP通信、日経新聞などがすでに行っている。この2社はさらに先に進み、2018年上旬に「RADAR」という新サービスを立ち上げようとしている。埋もれているローカルニュースのデータを収集し、自動的に月3万件記事化することを目標とする。7月6日には、グーグルから70万6千(約9100万円)の支援を受けたことが発表された。
すべてAIが記事を担当するとなると、事実誤認やフェイクニュースの拡散といった懸念も出てくる。この点についてピーター・クリフトンは「熟練した人間のジャーナリストは、依然としてこのニュース生成プロセスにおいて非常に重要」と、人間を完全に排除するものではないことを強調している。RADARはAIを利用することで「手作業でニュースをつくっていては提供不可能なローカルニュースを、効率化によって可能にするもの」という位置付けだ。
いよいよ本格的に新聞や週刊誌の記事づくりにAIが参入してくる時代がやってきた。これからの記事づくりは、情報の収集や整理といったことはAIに任せ、視点の提示やデータの解釈、信頼関係を構築して貴重な「証言」を引き出すなど、“人間にしかできないこと”を突き詰めていかなければならない。
※週刊朝日 2017年7月28日号