「脳卒中の発症直後には半数以上の患者に嚥下障害がみられますが、脳卒中の部位によって早くよくなる場合と長引く場合があります。飲食物が気管から肺に入る誤嚥は命に関わることもあるので、病状を見極め、適切なリハビリを早期からおこなうことが重要です」
初めて脳卒中で片麻痺になった患者は早い段階で嚥下障害が改善する場合が多い。意識がはっきりしていれば3ミリリットルの水を3回飲む水飲みテストやゼリーを食べるフードテストをおこない、問題がなければ直接訓練をおこなう。からだを少し後ろに傾け顎を引いた姿勢などで、少量ずつのみ込む訓練をしていく。障害の程度によりゼリー、とろみ水、ペーストなど段階的に普通食に近づける。
一方、長引くと予想できるのは三つのタイプがある。
一つ目は脳幹にある嚥下中枢の部分がちょうど障害された場合だ。手足の麻痺はなく、嚥下だけが困難で重度になるケースもある。
二つ目は脳幹が広範囲に障害された場合で、意識障害を伴い人工呼吸器や気管切開に至ることもある。このタイプは重い嚥下障害が残ることが多い。
三つ目は脳卒中が再発して1度目とは反対側の脳が障害された場合だ。唇や舌の動きも悪く、のみ込みも不良である。
このような患者にはまずは呼吸、発声や発音の練習、舌や唇の体操など「間接訓練」といわれる嚥下に関わる器官の運動をおこないつつ、直接的なのみ込み訓練に移行していく。
嚥下障害がやや長引くが回復が見込まれる患者には、チューブを口から食道まで入れて栄養を注入し、注入後はチューブを引き抜く方法がある。
「経鼻胃管を留置することや胃ろうを作る不利益がなく、チューブをのみ込むと嚥下反射が起こるのでそれ自体が嚥下リハビリになります。意識がはっきりしていて手足の麻痺が軽い患者に適しています」(藤谷医師)
手術をおこなう場合もある。食道の入り口を少し切って緩める手術だ。手術とリハビリで食べられるようになる患者もいる。
「手術が有効な病態かどうかは主治医を通して専門医とご相談ください。手術後もリハビリが必要なこと、元の機能に戻るわけではないこと、気管切開や合併症についてもよく理解した上で、手術に臨む必要があります」(同)
※週刊朝日 2017年7月21日号