改憲をめざす運動団体「日本会議」への関心が高まる中、約30年前に刊行された本が再評価されている。『果てなき夢』(二十一世紀書院)。知る人ぞ知る好著として民族派の間で語り継がれてきた長編作品だ。朝日新聞編集委員・藤生明氏が著者に現在の思いを尋ねた──。
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『果てなき夢』は、右翼や新左翼、ヤクザなどのノンフィクション作品で知られる山平(やまだいら)重樹氏(64)が1989年に著した。390ページにおよぶ大著だ。最近、ジャーナリストや出版関係者らの注目を集め、文庫化に関心を寄せる出版社もあるという。
第一章「もうひとつの学生運動」は、新右翼「一水会」元代表の鈴木邦男氏らが民族派「早稲田大学学生連盟」を結成する場面から始まる。鈴木氏はその後、新宗教「生長の家」の活動に軸足を移すが、その頃、同教団の学生運動で着々と実績を積み重ねていたのが、現日本会議事務総長の椛島有三氏ら、長崎大学のグループだった。
山平氏は、椛島氏らが左翼学生と闘い、全国組織「全国学生自治体連絡協議会」(全国学協)を結成する経緯を詳述。さらに70年の三島事件や、同じ民族派の全国組織「日本学生同盟」(日学同)と全国学協の蜜月と反目などについて、同書の前半部分約160ページを割いて描いた。
そのくだりが、日本会議の源流を探ろうと資料をあさっていたジャーナリストらの目にとまった。『日本会議の研究』を書いた菅野完氏も、『日本会議の正体』の著者・青木理氏も、執筆の際に山平氏を取材している。菅野氏は言う。
「新右翼のムーブメントがまだ歴史になっていない30年前に、歴史として描ききった。その構想力、筆力に脱帽する。早すぎた名著というべき作品だ」
その言葉通り、同書は60~80年代の右派学生・青年運動史を俯瞰している。
山平氏自身、右派学生運動の活動家だった。高校在学中の70年、三島事件に衝撃を受け、法政大進学後、日学同の門を叩いた。