宮永俊一社長は決算発表と同時に、中期経営計画で掲げた「17年度に売上高5兆円」の目標の2年先送りも公表した。13年に就任した宮永氏にとって「悲願」の目標。達成のために同社が苦手としてきたM&A戦略にも取り組んだが、本社と現場がかみ合わず、かなわなかった。その構図は古い組織と新しい組織の相克のようでもあった。

 それを象徴するのは、4月に三菱重工神戸造船所内に「民間機調達センター」を発足させたことだろう。本社の直轄組織で、各事業所に分散する飛行機用の汎用部品の調達を集約し、コスト削減を徹底するねらいだ。飛行機を生産する名古屋航空宇宙システム製作所(名航)がある名古屋に置かなかったことがミソだ。

 三菱重工は「広島製作所でもボーイングの仕事が増え、いずれ神戸造船所内でMRJの主翼を造る計画。主力拠点の名古屋と広島の中間地点に持ってきた」と説明する。

 ただ、業界には「名古屋には重工と関係の深い下請け企業が多く、長年の取引でなれ合いになった面を是正するねらいもあるのでは」との見方もある。

 MRJは08年に開発が始まった。5年後の13年に初号機を納入予定だったが、納入目標は20年半ばに大きく後退。当初1500億円程度と見込んだ開発費は、3倍以上に膨らむ。

 すでに447機を受注し、契約を引き留めるために補償金を払わなければならない。大きなコスト負担の「金食い虫」となり、不動産売却などで開発資金を捻出しているのが実態だ。人員にも手をつけ、MRJに関わる2850人を18年4月までに配置転換などで2割減らすことも決めた。

 開発遅れの要因は、監督官庁による安全認証の「型式証明」を予定通り取れないからだ。民間機の設計ノウハウは、同社が長年培った防衛省向けの戦闘機と大きく違うことが開発着手後に判明。宮永氏は「開発前の情報収集やリスク分析が足りなかった」という。

 認証を早く取得するため、経験豊かな外国人従業員を300人近く採用した。なかには日給10万円の技術者もいて、労務費が増えて収益減の要因に。「純国産とうたいつつ、大事な部分を外国人に頼り、日本人を削減。本末転倒ではないか」(航空機業界関係者)との声も出ている。

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