ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。今回はフェイスニュースに関する、各国の法規制について取り上げる。

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 5月3日に下院を解散し、6月8日に総選挙を実施することを決めた英国のテリーザ・メイ首相が選挙公約を発表した。

 公約の中心は昨年決まった「ブレグジット」と呼ばれる欧州連合(EU)からの離脱に関するものだが、メディア関連の公約として注目すべきものが含まれている。発信される情報について「きちんとした監督」を行っていないプラットフォーム事業者や接続業者(ISP)に対し、罰金などの制裁措置を科す方針を示したのだ。

 メイ首相は公約に関する声明でこのように語っている。

「インターネットはさまざまな機会をもたらした一方で、新たなリスクを社会が対応する以上の速度でもたらしている。SNS企業はバランスを是正するための努力と行動を起こすことを願う。インターネット上の被害に対抗するため、SNS企業やISPなどの業界への課金を行う法律導入にも力を入れる」

 メイ首相がこの時期に強硬なネット規制を掲げた背景には、フェイスブックやツイッター上で横行するフェイクニュースの存在がある。

 英国のEU離脱決定や米国のトランプ大統領誕生に、フェイクニュースが大きな役割を果たしたことで、その流通に寄与したフェイスブックやツイッター、グーグルなどのプラットフォーム事業者への批判が高まった。フェイスブックやグーグルは、今年に入ってからニュースのファクトチェックを行う機能を外部のNPOなどと提携して行うようになり、先日行われたフランス大統領選挙でも一定の成果を上げたと言われている。しかし、メイ首相からすれば、それでもプラットフォーム事業者の対応は生ぬるいと感じているのかもしれない。

 
 フランス大統領選では、フェイクニュースが大量に流されたものの、その多くは英語の情報だった。言語の壁があったために、フェイクニュースが影響力を持てなかったと見る向きもある。だが、英国はフェイクニュースが注目されるきっかけとなったブレグジットが起きた国であり、6月の総選挙で様々なフェイクニュースの標的になる可能性が高い。そこで、ヘイトスピーチやフェイクニュースの削除を怠ったプラットフォーム事業者に対して、最大5千万ユーロ(約60億円)に上る罰金を科す法案を3月に提出したドイツに倣って、選挙後に同様の法案を制定することをもくろんでいるということだ。

 プラットフォーム事業者に情報発信に伴う責任を求めるという意味で、ドイツ政府の対応を支持する声も多い。その一方で「表現の自由を過度に制限することになるのではないか」との懸念もある。誰がどのような基準で削除する書き込みを決めるのかという線引きについても議論は紛糾しており、フェイクニュース対策を巡る状況はまだまだ落ち着きそうにない。

 いずれ日本も同様の議論をしなければならない時期が来るだろう。その意味で、ドイツや英国のネット規制が今後どうなっていくか注視する必要がある。

週刊朝日  2017年6月9日号