マイルス・デイヴィス・ウイズ・ドナルド・ハリスン
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マイルスとドナルド・ハリスン共演初日ライヴ登場
Miles Davis With Donald Harrison (Cool Jazz)

 マイルスとドナルド・ハリスン(アルト・サックス)の貴重なライヴは、クール・ジャズから『ミーツ・ドナルド・ハリスン』として出ていたが、続編として登場したのがこのカナダはオンタリオ州バーリントンでのライヴ。この日がハリスンにとってマイルス・バンドにおける記念すべき初出勤日となり、翌日のニューヨーク・ライヴを収録したものが前述盤となる。したがって『聴けV7』の756ページをガバッと開いて読み、しかるのち本稿へと進んでいただければと。ほんと、なにかとお手数かけて申し訳ないことです。ちなみに2日連続のライヴゆえレパートリーはと比較すれば、1曲目から11曲目までは同じ、ところが前述盤はその11曲目の途中でフェイドアウト、そこから先の展開が読めない状態だった。一方、本盤はその先の4曲までがっつり収録、マイルス~ハリスン初共演にしてコンプリート仕様と、記録性・希少性はいっきに急上昇した。クール・ジャズは地味な存在ながらも忘れたころにこのような鋭いブツを放ち、2008年現在もなお侮れない。

 ところでハリスンは、あるインタヴューでマイルスとの出会いを「Somebody called me and told me to call me to call this number and Miles told me to come to his house. 」と早口言葉のように述懐しているが、冒頭の「誰かが」ってあなた、覚えていないのですか。たぶんマイルスのロード・マネージャーあたりだろうが、ともあれマイルス宅に行ってCDを受け取り、その直後のカナダ・ライヴとなる。またマーカス・ミラーからマイルスの新作用にとスタジオに呼ばれて演奏したという説もあるが、ともあれ現時点では未発表。時期から推察するに、おそらく『シエスタ』のセッションではなかったろうか。とするなら永遠に未発表で、よし。

《カーニヴァル・タイム》を含め終盤5曲を中心に聴こう。哀愁のリフレインがかっこいい《トーマス》は怪しくも黒光りするハリスンの短いソロが効いている。アルト奏者を雇うなら、ケニー・ギャレットよりハリスンのほうがよかったのではないか。《バーン》は全員入り乱れての爆走、《メイズ》でたたみかけ、最後の《ポーシア》で潮が引いていく構成は何度聴いてもうまい。なおハリスン、「マイルスはやさしく、親切な人物だった。テレンス・ブランチャードとのグループが終わったとき、ぼくをワーナー・ブラザーズに紹介してくれた。マイルスのバンドを辞めてからでも、マイルスは電話をくれて"元気でやってるか?"とか、いろいろと心配してくれた」と回想している。ちょっといい話。

【収録曲一覧】

1 One Phone Call / Street Scenes-Speak
2 Star People
3 Perfect Way
4 Human Nature
5 Wrinkle
6 Tutu
7 Splatch
8 Time After Time
9 Full Nelson
10 Don`t Stop Me Now
11 Carnival Time
12 Tomaas
13 Burn
14 Maze
15 Portia
(2 cd)

Miles Davis (tp, key) Donald Harrison (as) Bob Berg (ss, ts) Garth Webber (elg) Robert Irving (synth) Adam Holzman (synth) Darryl Jones (elb) Vincent Wilburn (ds) Steve Thornton (per)

1986/12/13 (Canada)

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