林:でも、一つアドバイスさせていただくと、取材して書いていると、いつかつらくなるときが来ますよ。誰かに聞かないと書けないとなると、だんだんおっくうになりますから。
川村:なるほど。確かに、取材して書いても、ウソをつき始めますもんね。自分はこんなにもウソつきだったんだということに、書いているうちに気づかされます。
林:そのうち誰にも聞かなくても、いろんなバリエーションが頭に浮かんでくるようになると思う。
川村:吉田修一さんにも「もっと無責任に書きなよ」って言われるんです。でも、無責任に書いておもしろいものができる自信がないから、やっぱりすごく取材もしちゃうし、小説3本分ぐらいのものを頭のなかにためてから1本にして書いてるんです。だからすごく時間がかかります。ただ、今回の本では、結末を決めずに書くおもしろさがわかり始めました。映画って脚本をつくってから撮るじゃないですか。だから最初は結末が見えないまま書くことにすごく抵抗があったんですよ。
林:登場人物が勝手に動きだすと、「あ、こっちのほうに引っ張られていくのか」とか思いません?
川村:そうなんです。そんなこと、自分の文脈ではありえなかったんですよ。小説は、そういうのがおもしろいんでしょうね。
※週刊朝日 2017年4月28日号より抜粋