大ヒット映画「君の名は。」をはじめ、「悪人」「モテキ」「何者」など数々のヒット映画を世に送り出してきた川村元気さん。言わずと知れた東宝の名プロデューサーですが、近年は作家としても大活躍。作家の林真理子さんが創作の秘密に迫ります。
* * *
林:川村さんが出てきたとき、すごいなと思いましたよ。映像の世界の方が書いた小説って、セリフが多くてそれ以外の描写が粗っぽかったりもするんですが、とてもきめ細やかに描写されていて。『四月になれば彼女は』は最近めずらしい恋愛小説ですが、いま大人の恋愛小説が少ないから、自分で書いてみようと思ったんですか。
川村:「大人の恋愛小説が最近売れない」って当たり前に言われていることが、おもしろいなと思ったんです。恋愛小説のベストセラーは過去にたくさんあるんだから、だとしたらいまの人間のほうが変わったんだろうと。どう変わったのかと思って100人ぐらいに取材しました。
林:取材って、周りの人に聞いていくんですか。
川村:30~50代の女性を中心に、数珠つなぎに。それで、「恋愛している人がほとんどいない」ことに気づいたんです。若いころの恋愛については、みんな熱く語れるのに。
林:でも、たとえば旦那さんがいる人は、正直に「恋愛してる」とは言わないでしょう。
川村:そこは取材の技術ですよね。ぜんぜん関係ない話をしながら、さりげなくその話に持っていくとか。僕、人が“墓場まで持っていく話”が大好物なんです。精神科医に、「現代人が恋愛しなくなった理由」について聞きに行ったときに、「ご自身はどうなんですか?」って聞いたんです。そうしたら「妻と離婚しかけてる」と。結局われわれも精神科医みたいなもので、他人の問題は解決できるのに、自分の問題には向き合えない。それで主人公を精神科医にしたんです。基本的にはここに出てくるセリフや登場人物は、僕が実際に聞いた話がベースになっています。