父親は弁護士で母親はピアノ講師、自身は大学院生などという設定で、出会い系や婚活サイトで知り合った男性らと肉体関係を持ち、1億を優に超えるカネを貢がせた木嶋被告。関係した6人の男性が死亡し、そのうちの3人は練炭による不審死だった。木嶋被告は、彼らから「頂いた」お金で、高層マンションの最上階で暮らし、ワインレッドのベンツを運転。高級住宅地にある料理学校「ル・コルドン・ブルー」に通っていた。
派手な生活ぶりやセックス観、男性観が赤裸々に明かされる「100日裁判」は、木嶋被告の服装から表情まで連日メディアに報道され、傍聴券を求める人びとで溢れかえった。
精神科医の香山リカさんも3回の傍聴をふり返る。
「傍聴前は、木嶋被告を精神医学的な病理を抱えた人だと思っていたけれど、その印象が私の中で崩れていったのが印象的でした」
感情的に問い詰める男性検事に対し、木嶋被告は、よく通る声でよどみなく理路整然と返す。
「私でも会話の間に、『あー』とか『えー』と言葉をつなげてしまいますが、彼女の場合はまったくそれがない。法廷ファッションショーと言われたように、午前と午後で服装を替えた。折り目のついたハンカチを手に持つ姿に象徴されるように、清潔で神経が行き届いた服装。彼女の手紙を見て誰もが驚くのは、達筆な文字。きちんと信用にたる女性だという完璧なイメージで武装して生きてきたのでしょう」(香山さん)
作家の岩井志麻子さんは、著書『「魔性の女」に美女はいない』で、かならずしも美女ではないが男を狂わせる女のひとりとして木嶋被告を挙げた。
「1億を優に超える金額を数多くの男性から『頂いた』と答えていますが、成功より失敗例のほうがはるかに多かったはず」
その中で彼女は、成功例だけを抜き出して、「セレブ」としての自分を演じてきた。岩井さんはそんな木嶋被告を「虚構の中に生きる女」だと分析する。
それは拘置所の中でも、同じかもしれない。ブログ「木嶋佳苗の拘置所日記」で公開する内容や、週刊誌への手記では、東京拘置所を「小菅ヒルズ」「ヒルズ」と呼ぶ。ヒルズの日常には、長身イケメンの「王子」や富裕層らしきセレブな夫婦や拘置所内で結婚した夫が登場。彼らは、熱心に手紙や面会で木嶋被告を励まし、シルクの靴下やブランド品などを差し入れする支援者として紹介されている。