トランプ大統領当選から揺れる米国の為替相場。“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、FOMCの決定後に起こるうる米国の利上げから日米の金利差を論じる。

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 テニスで対戦したワタナベさんが「ヒラタさんとフジマキさんのペアは、打つ球種が違うから対応が大変ですよ」と言った。ヒラタさんが「性格も正反対です。ワハハ」と答えたから、私はこう突っ込みを入れた。「ヒラタさん、ご自身の性格、そんなに悪いと思っているんですか?」

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 米連邦公開市場委員会(FOMC)が15日、政策金利を25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)引き上げ、0.75~1.0%とした。米労働省が10日発表した2月の雇用統計は非常に強い数字だったため、利上げはほぼ確実視されていた。

 市場では「FOMCが今後の利上げペース加速を示唆するのでは」との臆測もあった。にもかかわらず、その示唆がなかったため、マーケットは大きく動いた。株高、長期金利低下、円高ドル安だ。

 米長期金利市場は10年物国債が前日比11bp低下し、2.49%に。1日に11bpは大きな動きだ。

 最近の為替相場は、日米の長期金利差が主因で動いている。トランプ米大統領の発言の影響ではない。為替相場は金利差縮小に反応し、FOMCの決定後に1ドル=113円前半と、1円ほど円高ドル安が進んだ。

 だからと言って、「円安ドル高傾向はもう終わった」と思うのは早計だ。米国の利上げはこれが最後ではない。直近の円高ドル安は一時的ではなかろうか?

 米国の利上げは今後も数カ月ごとに話題になるだろう。米連邦準備制度理事会(FRB)自身も、今年あと2回の利上げを予想している。

 米国の景気の良さは不動産や株の価格上昇による資産効果のおかげだと思われる。1980年代後半の日本のバブル経済と同じ現象だ。完全雇用状態という点も似ている。日本のバブル期は、資産価格が急騰したのに、消費者物価指数(CPI)が極めて安定していた。このため、日銀の対応が遅れ、その後の金融引き締めが急激となったのだ。

 
 FRBも現在、CPI上昇率の低さにとらわれて引き締めが遅れているように思えてならない。FRBは2004年6月から06年6月まで17回連続、25bpずつ利上げした。その二の舞いにならないとも限らない。当時、政策金利は1.0%から5.25%まで上昇。05年はなんと年8回も利上げしたのだ。

 ここまで過激ではないかもしれないが、米国ではマーケットの予想以上に利上げが激しくなる可能性も十分にありうると思う。

 一方で、日銀は16日の金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を決めた。日銀は利上げの手段を持たず、日米の金利差は今後ますます開いていくだろう。

 日本国債10年物の現在の利回りがおよそ0.08%なのに対し、米国債は約2.5%。米国債を買えば、日本国債よりも年2.5%分多くの利息を得られる。10年間で25%分となる。その分は、為替で損してもカバーできる(複利で考えなくてはならないので、ここまで単純ではないが)。

 金利差5%分となれば、10年間で50%分になる。為替でドル円のレートが半分にならないならば、米国債を買うほうが有利だ。日米金利差が広がるほど、ドルを買ってドル債への投資は増える。ドル高円安が進行する、と私が考える理由の一つである。

週刊朝日 2017年3月31日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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