トランプ大統領当選から注目される米国の経済政策。“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、米国や英国の例から日本のグローバル化について考える。

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 私が大学生の頃、外車はステータスシンボルだった。左腕だけの日焼けは、左ハンドルの外車を運転している証拠。だから、左腕だけを一生懸命、焼く若者もいた。そんな時代に我が家は日産自動車のチェリーを買った。東芝に勤めていた父が「藤巻家もいよいよ車が持てる」と感慨深げだったのを覚えている。当時の藤巻家にはもちろん、外車など夢のまた夢だった。

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 2月10日のNHKニュースで「日本企業がメキシコに進出している」とのリポートが流れた。「TOYOTA」の次に紹介された映像が、「NISSAN」の看板。エ、エ、エ、日産って日本企業なのか?

 日産は外国人株主の比率が約7割。大株主をみると、ルノーが43.4%と最も多い。2015年度の総生産台数は520万台で、うち国内生産は85万台。残る435万台は海外で、推測するに従業員も外国人のほうがよほど多いだろう。

 以上、様々な観点からみて、日産は外国企業といえるのだ。たまたま本社が日本にあり、日本語の社名をつけているに過ぎない。日産車は、外車とも言える。日産の傘下に入った三菱自動車の車も、そうかもしれない。大部分は右ハンドル車だから、左腕は日焼けしないかもしれないが。

 日産の代表取締役は、カルロス・ゴーン会長兼社長をはじめ、3人中2人が外国人。そのゴーン氏が社長を退任して会長に専念するとのニュースが、最近大きく報道されている。日本企業を率いる優秀な外国人トップが社長職を譲ったかのように報道されているが、「ちょっと違うんだけどなー」と感じてしまう。

 
 日産が実質的な外資企業になっても日本にとって重要な存在なのは、日本でまだ85万台も生産しているからだ。工場からは固定資産税が、働く従業員からは所得税が、政府に入る。利益の4割は筆頭株主のルノーへ、3割はその他の外国人へ配当金として配られる。一方で、重要な雇用主としての立場は残る。

 日産の例を考えれば、外国企業の日本進出がいかにわが国に重要かがおわかりだろう。トランプ米大統領は「トヨタの工場をメキシコではなく米国につくれ」などと、米国への直接投資を増やそうとしている。

「反グローバル化だ」と非難する識者もいるが、対内直接投資の呼び込みがきわめて少ない日本のほうが、よほどにグローバル化されていないと私は思う。出ていくだけがグローバル化ではなく、外資を取り込むのもグローバル化なのだ。

 直接投資誘致の成功例として、英国ロンドンのシティーがよく挙がる。“ウィンブルドン”と呼ばれる現象だ。最近でこそ英国選手マリーが大活躍するものの、少し前まではテニスのウィンブルドン大会で活躍する英国選手はいなかった。それと同様に、シティーで活躍するのは外国銀行のみで、英国の地元の銀行は駆逐された状態だ。しかし、外国銀行が進出したおかげで、シティーに勤める従業員は高給をもらい、英国経済を支えている。

 日本は英国やトランプ氏を見習うべきだ。

週刊朝日 2017年3月17日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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