司法解剖をした病院に乗り込み、遺体の引き渡しを求める北朝鮮の大使館員ら (c)朝日新聞社
司法解剖をした病院に乗り込み、遺体の引き渡しを求める北朝鮮の大使館員ら (c)朝日新聞社
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 マレーシアのクアラルンプール国際空港で2月13日、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男(キムジョンナム)氏(45)が外国人女性らの手で白昼堂々、毒殺された。スパイ映画のような手口に世界中が仰天したが、正男氏は生前、本誌に弟、祖国への複雑な思いを打ち明けていた──。

 金正男氏は故・金正日総書記の2番目の妻で、女優の成恵琳氏(故人)との間に生まれた長男だ。4番目の妻、高英姫氏(故人)を母に持つ金正恩委員長とは異母兄弟の関係だ。

「いくらなんでも、金日成、金正日の血統の人物を殺害するとは、常軌を逸している」(早稲田大学の重村智計名誉教授)

 金正男氏が日本で知られたのは、偽造パスポートを使って家族づれで日本に不法入国を試み、成田空港で拘束され、大騒ぎとなった小泉政権下の2001年だ。

 だが、目的は「東京ディズニーランドに行きたかった」という能天気なもので、そのまま強制退去処分となった。その後は北京、マカオ、シンガポールなどに居住して、IT関連事業などのビジネスを手掛け、香港や北欧で会社を経営していたという。北京には前妻と息子1人、マカオには後妻と1男1女がいるという。

「母親の墓があるロシアへ行くこともあった。また息子の留学先のパリでも目撃されていた」(コリア・レポートの辺真一編集長)

 強制退去後も日本のメディアと接触を続け、ソフトな物腰、丁寧な受け答えで北朝鮮の改革・開放を訴える姿は、金王朝の中では異色。日本人記者にとって“愛
すべき人物“で、本誌記者も正男氏とはマカオ、香港などで、たびたび接触していた。

 初めて正男氏と会ったのは約10年前、マカオのホテルだった。以前、知人に頼まれ、正男氏に東京ディズニーランド、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)など日本のテーマパークの本を贈ったことが縁だった。

 ホテルのラウンジで、正男氏は真っ先に「本、ありがとう」と片言の日本語で言った。日本語を少し理解でき、英語は堪能だった。

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