「それでもない」
「拉致問題をどう思うか」
「拉致問題はすぐさま解決しなければならない。あんなことをやってはいけない。私にも子どもがいる。本当に悲しいばかりだ」
酒瓶をすべて空にすると2次会はカラオケ店へ。正男氏はビートルズの「Let it be」など2曲を熱唱した。兄弟のことは何度か話題にした。
「正恩、正哲は母親が違うので、ほとんど知らない。(近況などは)人づてに聞いて知る程度。一度会ってゆっくり話したいものだ」
だが、後継が正恩氏に決まると、弟について口にしなくなった。父・正日氏についてはこう語った。
「子どものころから、ほとんど家にはいなかった。いつも父親の周りにはたくさんの人がいて、あまり家族の印象がない。父とは北朝鮮の地方視察に何度も行ったが、忙しすぎる人だった。自分は政治家ではない。家族を大事にしたい」
印象的だったのは、ポツリと漏らした「私の人生、複雑だ」という言葉だ。
海外での生活が長い正男氏だが、生活資金などは父親の金正日総書記から定期的に援助されていたという。正男氏の知人の証言。
「正恩政権になってからは、本国からの送金はストップした。だが、叔父の張成沢元国防副委員長が支援していた。張氏の粛清後、支援は途絶えたが、それまでに得た資金でシンガポールやマレーシアでの投資ビジネス、不動産で大きな利益を上げていた。北朝鮮のプリンスの看板は大きく、投資仲間もいたが、表に出ることは避けていた」
正男氏はビジネスについても記者に「インドのムンバイの投資案件を手掛けている」「マレーシアの貿易で利益が出ている」と話したこともあった。
日本の企業の株にも興味を示し、「IT株は有望で、中国に進出すれば、もっと株価が上がる」と語った。
正男氏が張氏から引き継いだ遺産は、100億円以上とされる。弟で王朝を継いだ金正恩氏は12年、正男氏一家に帰国命令、財産の全額返還を命じたが、正男氏は帰国せず、助命を嘆願する手紙を出していた。前出の知人が続ける。