北方領土問題は進展しなかった日ロ首脳会談。ジャーナリストの田原総一朗氏は、トランプ新大統領の方針にも関わってくると指摘する。
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12月15、16日の日ロ首脳会談は、いったい何だったのか。15日は安倍晋三首相の地元である山口県長門市の温泉旅館で約5時間、うち95分間は安倍・プーチンの差しで会談した。翌16日も東京で約1時間10分の会談をしたが、翌17日の各紙のトップの見出しは「領土進展なし」。産経新聞が一番厳しく、「『引き分け』より後退か」との見出しだった。
ニューヨーク・タイムズも「シリア内戦やウクライナ危機でロシアを非難するオバマ政権の反対にもかかわらず、安倍首相はプーチン氏に会う決断をした」と批判を込めて書き、「しかし、結局は北方四島での経済協力の協議を続けること以外、ほとんど何も出なかった」と評した。
ロシアの報道や専門家はいずれも「ロシアの外交的勝利」を強調している。プーチン大統領のしたたかな外交手腕に、安倍首相はしてやられたということになるのだろうか。
16日の両首脳の共同記者会見で、安倍首相は「北方領土での共同経済活動に関する協議を開始することが、平和条約締結に向けた重要な一歩になり得るとの相互理解に達した」とし、日ロ双方の立場を害さない「特別な制度」の下で行うと強調した。だが、その後発表されたプレス向け声明には「特別な制度」の文言は消えていた。強い抵抗を示されロシアのペースになったということか。
安倍首相は17日の日本テレビのインタビューで、プーチン大統領が北方領土問題を含む平和条約交渉を、1956年の日ソ共同宣言を起点に据えていると語った。ただし、この宣言は平和条約締結後の歯舞、色丹の日本への引き渡しを明記しているものの「主権を返すとは書いていない」というのがプーチン氏の理解で、日本側と齟齬(そご)があるという。
プーチン氏は16日の記者会見で、極東地域のロシア軍基地の重要性を強調し「この点で日米安保条約がどのような立場をとるのか、ロシア側の懸念に考慮してほしい」と述べている。つまり、2島を返還したら島は日米安保の範囲に入り、米軍が活動する可能性があると心配しているのだ。冷戦は終わったが、米ロはシリア、ウクライナなどで敵対関係にある。2島を日米安保条約の適用外とすることなどできるだろうか。
だが、日ロ関係に詳しい鈴木宗男氏は、日米安保が交渉の障壁というのは「浅い見方」だと言う。鈴木氏に言わせると、オバマ氏とプーチン氏の関係は最悪だが、トランプ新大統領はプーチン氏と厚い親交のあるレックス・ティラーソン氏を国務長官に指名した。大統領補佐官となるマイケル・フリン氏も親ロ派で、プーチン氏を高く評価している。その一方で、トランプ氏は台湾の総統と電話協議し、「中国を一つとしてとらえるかどうかは中国次第だ」などと、中国側を刺激する言動を繰り返している。新組織「国家通商会議」のトップには対中強硬派のピーター・ナバロ氏をあてると発表した。
鈴木氏はトランプとプーチンが対中戦略で腕を組み、安倍首相がその間に入るという構図を示すのだが、そんなことが山口県の温泉旅館で話し合われたのだろうか。
※週刊朝日 2017年1月6-13日号