ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。欧州で始まったネット上のヘイトスピーチに対する規制について論じる。

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 ネット上のヘイトスピーチに対する規制のあり方をどうするか、欧州で議論が活発化している。

 EUの行政執行機関である欧州委員会は12月4日、フェイスブック、ツイッター、マイクロソフト、そしてユーチューブを運営するグーグルの4社に対して、それらのサービス上に投稿されたヘイトスピーチに、より迅速に対処するよう要請した。

 背景には、欧州の、大量の移民や難民の流入に対する反感の高まりがある。たまった反感がソーシャルメディアへのヘイトスピーチ投稿という形で具現化しているのだ。欧州委員会が懸念しているのは、そうしたヘイトスピーチがネット上に蔓延(まんえん)することで、攻撃の対象となって社会から排斥され、疎外感を持った人たちが「イスラム国」(IS)が扇動する過激主義と結びつくことだ。パリ同時多発テロ事件やブリュッセル連続テロ事件を経験した欧州だからこそ、身に迫る危険を回避するため、ヘイトスピーチを野放しにできないという思いがあるのだろう。

 実は欧州委員会は今回の要請に先立って、2016年5月にフェイスブック、ツイッター、マイクロソフト、グーグルの4社とヘイトスピーチに関する合意を交わしている。合意には「24時間以内に削除または遮断すること」「削除にあたって反差別などで活動する市民団体と協力すること」「カウンターナラティブ(ヘイトスピーチに対抗する言説)を促進すること」といった項目が含まれていた。ただし、この合意はあくまでも4社に自主的取り組みを促すもので強制力はなかったため、対策の実効性を疑問視する声もあった。

 
 合意から半年が経過した12月6日、欧州委員会は5月の合意で約束されたヘイトスピーチ対策が実行されているのかを評価したリポートを公表。そこではこのように報告されていた。

「対処までに24時間以上を要しており、目標を達成できてはいない。24時間以内に審査されたケースは40%に過ぎない」

「この数字は48時間以内であれば80%以上となる。4社がさらに努力をすれば、目標は達成されるはずだ」

 欧州委員会は半年の検証期間を経て「4社のヘイトスピーチ対策はいまだ不十分」と評価したのだ。

 このリポートをまとめた欧州委員会の法務・消費者・男女平等担当委員のヴェラ・ヨウロヴァー氏は、12月4日付のフィナンシャル・タイムズの記事でこのように話している。

「4社が『法律で強制されなくてもヘイトスピーチ対策は可能だ』と私たちを説得したいのであれば、数カ月中に迅速かつ強力な対策を講じればよいのです」

 つまりこれは4社の現状のヘイトスピーチ対策では不十分であり、自主的に迅速な対応ができないのであれば、法律をつくって強制力を持たせるぞ、という「最後通告」だ。

 2017年上半期中にこの問題が大きく動く可能性は高い。その波はきっと日本にも押し寄せるはずだ。

週刊朝日 2016年12月30日号