ジャーナリストの田原総一朗氏は東京裁判に対する安倍首相の発言を振り返り、真珠湾訪問の重要性を説く。
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安倍晋三首相の在任日数が、12月5日で第1次政権と合わせて1807日となり、中曽根康弘元首相を抜いて戦後4位となった。そこで、各紙が中曽根氏と比較して、さまざまな安倍首相論を展開している。
「戦後政治の総決算」をうたった中曽根氏は、国鉄、電電公社、専売公社の民営化などをやってのけたのに対して、安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を掲げながら、見るべき実績をあげていない、という批判も少なくない。
だが「戦後レジームからの脱却」とは具体的には東京裁判の否定であり、憲法改正であり、安全保障での米国依存からの脱却であって、皮肉なことにいずれも安倍首相が実績をあげていないと批判する新聞や雑誌が大反対している項目ばかりだ。
だが、私が12月5日に強い関心を覚えたのは、この日、安倍首相が「真珠湾を訪問する」と発言したことについてだ。
私は、今でもはっきりと覚えている。1941年12月8日、日本海軍が真珠湾を攻撃して大戦果をあげた。その戦果をラジオが大々的に報じた。特殊潜航艇で戦死した9人の海軍兵士は軍神となった。
この真珠湾攻撃によって太平洋戦争が始まるのだが、米国は日本の宣戦布告の電文が届いたのは攻撃が始まってからであり、「真珠湾攻撃はだまし討ちだ」と国内外に怒りを爆発させた。だが後になって、米国側は日本海軍の行動をすべてキャッチしながら真珠湾の部隊には知らせず、「だまし討ち」のかたちにして、米国民をはじめ世界中の人たちの怒りをかき立てさせた、という説が流布するようになった。「ルーズベルト大統領の陰謀」論である。
安倍首相は12月26、27日にハワイを訪問してオバマ大統領と首脳会談を行い、オバマ氏とともに真珠湾を訪れるという。
「犠牲者の慰霊のための訪問だ。二度と戦争の惨禍を繰り返してはならないという未来に向けた決意を示したい。同時に日米の和解の価値を発信する機会にしたい」
安倍首相はこう発言している。
安倍首相は、「ルーズベルト大統領の陰謀」論にくみした発言はしていない。だが、東京裁判を批判する発言はこれまでに何度もしている。
例えば、第2次安倍内閣時の2013年3月12日の衆議院予算委員会でも次のように答弁している。
「さきの大戦においての総括というのは、日本人自身の手によることではなくて、東京裁判という、いわば連合国側が勝者の判断によってその断罪がなされたということなんだろう、このように思うわけであります」
「勝者の断罪」という表現には一方的という意味合いが込められていて、現に安倍首相は06年10月、「A級戦犯は、国内法的には戦争犯罪人ではない」と語っている。真珠湾攻撃で始まる太平洋戦争は満州事変、日中戦争に続く昭和の戦争の第3ラウンドであり、その結果として行われたのが東京裁判にほかならない。
安倍首相には真珠湾で、何としても昭和の戦争についての総括をしてもらいたい。昨年の「戦後70年談話」のように、主語のないあいまいな談話で終わらせるべきではない。
※週刊朝日 2016年12月23日号