アナザー・ベルグレード
アナザー・ベルグレード
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従来盤との「ちがい」に意義のある完全収録盤
Another Belgrade (So What)

 拙著『マイルスを聴け!』の最新ヴァージョンである「8」の巻頭で次のように書いた。「音質や内容に関するヴァージョンアップ盤(再発売)に関しては、今回から、収録内容と演奏時間に大幅なちがいがない限り、一部を除き、基本的に対象外とした。内容・時間いずれも変動がなく、ただたんに"リマスター"だけを謳ったものは、オフィシャル盤であれブートレグであれ、際限なく再発売をくり返していくであろうことから、その種のちがいを優先事項に挙げる理由は希薄になったとの判断による」

 なんと潔い書きっぷりであろうか。まあいいかえればそのようなちがいに驚く時代はとっくに過ぎたということではあるが、ここにご紹介する『アナザー・ベルグレード』は前述した「一部を除き」の対象作品となる。この日のライヴは悪名高きジャズ・ドアから『アナザー・ビッチェズ・ブリュー』(V8:P414)として出ていたが、音質良好だったにもかかわらず《イエスターナウ》がコンプリでなく、ライヴ丸ごと完全収録とはいかなかった。それがこのソー・ホワット盤ではコンプリとなり、さらに従来には未収録だった《イッツ・アバウト・ザット・タイム》《サンクチュアリ》計約20分が延長料金なしの追加サーヴィスとなっている。こういうヴァージョンアップ盤は大歓迎なのです。

 さあ今夜も1曲目は《ディレクションズ》だ。狂乱のリズム大会と思いきや、じつに整然と進行、ユニットとかバンドというよりも伝統的なコンボ然としたたたずまい。ツアーの疲れが出たか、元気が取り柄のバーツもシュンとしている。そこが聴きようによっては音楽的で、マイルスもキースもメインストリーマーぶりを発揮、ハチャメチャだけが71年バンドでないことを証明する。これだけ格調の高い《ディレクションズ》も珍しい。

 ところが油断大敵、《ホンキー・トンク》のただ長いだけのバーツのソロが終わってから、いかにもいかにものハチャメチャ路線へとなだれ込む。口火を切るのは、もちろんマイルス。わかったぞ、マイルスをこうも燃え上がらせたのは、キースの天才的な演奏ではなくバーツの低調ぶりだったのだ。そう、マイルス怒りのソロはバーツに端を発している。ということはバーツも役に立っていたわけか。そのマイルスにつづいて飛び出すキースがエレクトリック・ピアノと挌闘をくり広げ、それを受けてマイルスのワー・ワー・トランペットが狂乱の《ホワット・アイ・セイ》を運んでくる。ほとんどこのままオフィシャル化できる音質ゆえ早期オフィシャル化望みます。

【収録曲一覧】
1 Directions
2 Honky Tonk
3 What I Say
4 Sanctuary
5 It's About That Time
6 Yesternow
7 Funky Tonk
8 Sanctuary
Miles Davis (tp) Gary Bartz (ss, as) Keith Jarrett (elp, org) Michael Henderson (elb) Ndugu Leon Chancler (ds) Don Alias (per) Mtume (per)

1971/11/3 (Belgrade)