さらに、ここ数年SNSが発達したおかげで、ゆがんだマスメディアの報道ではなく、日本に行ったことのある人からの生の情報が手に入りやすくなり、中国人の日本に対するイメージが様変わりした。今の日本が中国人に誤解なく伝わるようになった、ということも「爆留学」を加速させた一因にある。
その波はさらに一歩進んで「爆就職」にも広がっている。日本の大学や大学院で学んだあと、すぐに中国に戻るのはもったいない、日本で就職するほうが自分のキャリア形成やステップアップのためになる、と考える中国人が増えているからだ。
法務省の在留外国人統計によると、15年末の時点で在日中国人は約66万6千人。在留資格別に見ると、ホワイトカラーが増えており、「技術・人文知識・国際業務」ビザの取得者は約6万人に上っている。「医療」「教育」「教授」などのビザ取得者も増えている。
中国人留学生といえば居酒屋かコンビニでアルバイト、就職も中国関係の中小企業のみ、という時代はとっくに終わり、ありとあらゆる業界・業種に活躍の場が広がってきている。大手銀行、大手商社、大手メーカーなどでは外国人を積極的に採用するグローバル採用をしているが、外国人採用の中で最も多いのは、やはり中国人なのだ。
都内の大学院で学び、大手法律事務所に就職した劉海(仮名・29歳)は、中国に投資する日本企業の知的財産権問題などを担当。企業担当者から信頼されて充実の日々を送っている。
「あと数年、日本の事務所で経験を積み、人脈を構築したあとは、中国で弁護士として活躍したい」と目を輝かせる。
大手メーカーの研究所に就職した謝健(31歳)は、当初、大学院を修了したら中国に帰ろうと思っていたが、先輩から日本のメーカーの技術について魅力的な話を聞き、日本での就職を決意した。中国の企業ではまだ学べない最先端の技術を日本で習得したい、と考え、残業して研究に打ち込んでいるという。
中国人が日本企業に数多く就職している、と聞くと「中国人は日本を乗っ取ろうとしているのでは? スパイではないか?」と疑う日本人がいるかもしれないが、それは杞憂だ。彼らはただ中国とは比べ物にならないくらい居心地のいい日本に住み、快適な生活をし、日本でしか学べない勉強や仕事をしたいと思っているだけなのだから……。(文中敬称略)
※週刊朝日 2016年12月16日号