「実は今回の最大の勝者は中国です。日米安保に亀裂が入れば日米のオウンゴール。安保にヒビが入れば日韓からも中国の太平洋進出の道が開けます。トランプ氏に打った祝電は、『サンキュー』だったのでは」
同志社大学の村田晃嗣教授(米国政治史)は北朝鮮の暴走を懸念する。
「トランプ政権は北朝鮮の核、ミサイル開発にも真剣に向き合わず、危険な状況になる可能性もあります」 実際、トランプ氏当選後に北朝鮮は砲撃訓練を実施。観覧する金正恩氏の表情はご満悦そのものだった。
日米の安全保障をめぐるトランプ氏の発言からは、沖縄などで「放置され続けてきた米軍基地問題に動きが出るかもしれない」(沖縄国際大学の前泊博盛教授)との期待感もにじむ。ただし基地問題の解決が、安倍首相にとって喜ばしい結果を招くとは限らない。
「日米安保の再検討がなされるなら、これまで避けて通ってきた本音の議論が求められる。その過程で、何かあればアメリカが守ってくれるなんて、根拠のない幻想にすぎないということがはっきりするでしょう」
前出の村田教授はこう警鐘を鳴らす。
「今回の大統領選で、日本国民の中で米国への信頼が揺らいだ。米国の民主主義に対しての評価も下がった。疑う状況が出てきたというのは、同盟関係が弱くなるということです」
もちろん、自民党内では自主防衛を唱えてチャンスと見る向きもある。ただ、政治経験のないトランプ氏は「劇薬」。特効薬のつもりが、東アジアの不安定化や経済失速を招き、安倍政権の寿命を縮めるなんてことも。今後に注目したい。
※週刊朝日 2016年11月25日号