コンプリート・コンコード1986
コンプリート・コンコード1986
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クール・ジャズお得意のロング・ヴァージョン盤登場
Complete Concord 1986 (Cool Jazz)

「またヴァージョンアップ盤かよ~」とお嘆きのあなた、たしかに今回もヴァージョンアップ盤ではありますが、これが昨今の一般的傾向と思い、ここはひとつ大人の態度でしばしお付き合いいただきたい。で、今回もまたしてもご存知クール・ジャズ社ヴァージョンアップ部からの新作登場とあいなる。

 アメリカは西海岸コンコードにおけるこの日のライヴはすでにメガ・ディスクから『コンコード1986』として登場している(聴けV8:P832掲載)。このクール・ジャズ盤はそのヴァージョンアップとなるが、ではどこがちがうのか。メガ・ディスク盤は7曲収録、それが今回は11曲まで拡張工事が進み、当然のことながらソースも異なり、よって音質もさらに向上という、いかにもヴァージョンアップらしい仕様となった。

 録音は旧盤同様、オーディエンスによるもの。思うに広がりや前面に迫り出してくる臨場感に欠けるサウンドボードよりは、少々の雑音や騒音が入っていてもオーディエンス録音のほうが音楽的かつ自然に響く場合が多く、ぼくはオーディエンス録音が基本的に好きですね。このライヴがその典型で、冒頭では客席の会話が飛び交い、演奏中も聞こえないわけではないが、さほど気にならず、この程度のものであれば自分も会場にいるかのような気分で許せる。しかも本日はスティーヴ・ソーントンのパーカッションがいつも以上に鮮明に聞こえ、シャカシャカと前後左右上下からマイルスのサウンドを彩り、さらには人知れず支え、それはそれは大活躍。

 レパートリーはこの時期のヒット・パレード、そういう意味では新味に欠け、同時期のライヴを所有しているマニアには不向きかもしれないが、高音質で聴きやすいということで初心者にはむしろこのあたりが最適かもと思わないでもない。しかしマニアのみなさん、すでにメガ・ディスク盤をもっている人は問題ないが、ここには《パーフェクト・ウェイ》の世界初演が入っているのです。早速「それがどうしたソー・ホワット」という声が聞こえてきましたが、記録性とはそういうことではないでしょうか。さすがに初演ということでしょうか、テーマ部分でバンドに戸惑いがみられ、その後の流れもギクシャクしている。それに無駄な音の多いアレンジで、シンプルが身上のマイルスとしてはやや着飾りすぎの印象も。いいかえればそれだけ本気度が高く、のちに定着する陽気な曲としてのイメージはまだない。そういう聴き方も楽しいコンコード・ライヴではあります。

【収録曲一覧】
1 One Phone Call / Street Scenes-Speak
2 Star People
3 Perfect Way
4 Human Nature
5 Wrinkle
6 Tutu
7 Splatch
8 Time After Time
9 Full Nelson
10 Carnival Time
11 Burn
(2 cd)

Miles Davis (tp, key) Bob Berg (ss, ts) Robben Ford (elg) Robert Irving (synth) Adam Holzman (synth) Felton Crews (elb) Vincent Wilburn (ds) Steve Thornton (per)

1986/8/16 (Concord)

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