中国と争っていた南シナ海の領有権問題では、今年7月に常設仲裁裁判所の判決が出て、中国の主張が否定された。ここでドゥテルテ氏が強気に出るかと思いきや、あえて中国に接近した。ジャーナリストの高野孟氏は言う。
「判決から約1カ月後の8月8日には、ドゥテルテ氏はラモス元大統領を特使として香港に派遣し、中国と話し合いによる解決を模索していた。米国への過激な発言ばかりが注目されるウラでは、領有権問題で中国と落としどころを探っていたということです」
今回の来日直前に中国を訪問。判決を事実上「棚上げ」することで、習近平国家主席と一致した。これには安倍晋三首相も危機感を募らせたはずだ。高野氏は続ける。
「集団的自衛権の行使を解禁したことで、安倍首相はこれからフィリピンを準同盟国と位置づけて中国への圧力を高めようとしていたからです。それが、ドゥテルテ氏は親日的な発言をしながらも安倍首相の思惑には距離を置いた。中国と『現実的な平和的解決』を模索しながら、二重底も三重底もある戦略的な外交をしている。単純思考で『中国包囲網』一辺倒の安倍首相が、手玉に取られています」
ルビーさんによると、「ドゥテルテは笑顔がステキだったけど、手は冷たかった」とのこと。熱狂の裏で冷静に計略をめぐらすドゥテルテ旋風に、安倍首相ものみ込まれつつある。
※週刊朝日 2016年11月11日号