ジャズに限らず、音楽ファンを長く続けていると、どうしても購入するソフトに偏りが出てくる。入手しやすいものや、自分の知ってる範囲に留まってしまい、ついつい同じような傾向のモノばかり聴いてしまいがちですよねー。
そんなとき便利なのが「オムニバス盤」やレコード会社が配布する「サンプラー」など、いろんなミュージシャンの演奏が一枚に収まったCD。こういうのを聴いてると、知らない奏者で「オッ！？」と思うのがあったりする。そこから興味関心の領域を広げていくというのが、じつはわたしのよく使う手だ。
これは15年ほど前に購入した、キャピトル・レーベルの女性ボーカルばかりを集めたオムニバス。オムニバス盤を買うなんて、ジャズファンの風上にもおけない奴だと自覚している。たしかにこのジャケットがLPサイズだったら、ダサすぎて所有するのも恥ずかしいけれど、CDだとまったく平気。むしろ可愛らしい。ラブリーである。
さて、ペギー・リーやアニタ・オデイくらいなら知ってたが、ベティ・ハットンやらエラ・メイ・モースとなるとまったく知らない。知ってるの半分、知らないの半分で、半分安心しつつ新規開拓するのが危険のないやり方だ。
このCDは、とっても良かった！特に、ヘレン・フォレストの歌う「I've Heard That Song Before」、ハリー・ジェームス楽団のゴージャスなイントロが転調を経て、伸びやかなヘレンの声が登場する。まるで「ザ・ベストテン」の松田聖子を見る少年のような心で、わたしはこの曲を何度も繰り返し聴いた。
これだけ気に入れば、オリジナルフォーマットのCDで欲しいとなるのは自然な感情である。すぐさま国内盤で出ていた元ネタの『ハリー・ジェームス・イン・ハイファイ』を取り寄せた。
ハリー・ジェームス楽団名義のCDだから、全曲ヘレン様が歌ってるわけではないが、それでも全16曲中４曲は彼女の唄入り。もちろん「I've Heard That Song Before」も入ってる！
１曲目からかけて、ワクワクしながら５曲目の「I've Heard That Song Before」を待った。だが…。
おかしいな？たしかにこれはオムニバスに入ってたのとまったく同じトラック、これがどういうわけかぜーんぜん良くないのである？！
不思議に思って、オムニバス盤の「I've Heard That Song Before」をかけてみると、こちらはやはりイイッ！
何がどう違うのかと言われても、ちょっと答える自信がないのだが、『イン・ハイファイ』のほうは、ハリー・ジェームスもヘレンも、そして楽団の皆もどこか事務的に聞こえるのだ。まるで給料もらってナンボといった覇気のなさ。
そこへいくとオムニバス盤のほうは全員がにこやかである。演奏が夢とロマンに満ち溢れてる。
同じ曲、同じ演奏なのに、感動したりしなかったり。この演奏を通して、わたしは、ほんのわずかな音質の違いが音楽の評価を左右することを発見したのだ。
音質の良し悪しで、音楽の本質は変化しないとするむきもあるが、少なくともわたしはそうではないと断言できる。
ただし、それが「高額なオーディオ装置で聴くこと」や、「ハイビット・ハイサンプリングの高音質CDで聴くこと」と、必ずしもイコールでない。このへんが誤解を招いているのではないだろうか。
結局のところ、ジャズのことをよく知ってる人がマスタリングを担当し、きちんと音質の管理をして作ったCDは音が良く、そうでなく適当に作ったCDは、20ビットだろうが何ビットだろうが音が悪いと、そんなふうに言うことができると思います。
と、書いたところで注文していたCDが到着した。次回はいよいよ従来のCDと高音質CDとを聞き比べ、どこがどんなふうに違うのかを検証していきます。
【収録曲一覧】
1. Sentimental Journey
2. I Had the Craziest Dream
3. Well All Right (Tonight's the Night)
4. I'll Never Smile Again
5. Five O'Clock Whistle
6. And the Angels Sing
7. I Don't Know Enough About You
8. Shoo Fly Pie and Apple Pan Dowdy
9. Green Eyes
10. No Love, No Nothin'
11. You Do
12. You've Got to See Mamma Ev'ry Night (Or You Can't See Mamma at All)
13. Trav'lin' Light
14. I've Heard That Song Before
15. I'll Get By (As Long as I Have You)
16. And Her Tears Flowed Like Wine
17. Shoo Shoo Baby
18. Until the Real Thing Comes Along
19. Why Don't You Do Right?
20. I'll Walk Alone
21. Cow Cow Boogie
22. It's Been a Long, Long Time
23. I'm Getting Sentimental over You
24. Doctor, Lawyer, Indian Chief
25. Take the "A" Train
26. I'll Be Seeing You
