スタディ・イン・ブラウン/クリフォード・ブラウン・アンド・マックス・ローチ
スタディ・イン・ブラウン/クリフォード・ブラウン・アンド・マックス・ローチ
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 チチチチン、チチチチンとシンバルの芯が鳴る。ブラウン~ローチ・クインテットの「ジョージのジレンマ」だ。このチチチチンは、おそらくジョージの頭をノックする様子を表しているのだろう。思考が回転をはじめ、ハッとしたり、ウッと窮したり、フワフワフワと不安になったりと、感情が揺れ動くさまを面白く描写している。

 この曲が入ったエマーシーの『スタディ・イン・ブラウン』は、オーディオ好きのジャズファンの間で、しばしば話題になることがある。当店でも、最新テクノロジーを駆使した優秀録音より、このような半世紀以上も前の盤を、いかに生々しく鳴らすかに心血を注いでる。

 わたしの趣味がオーディオだと話すと、すかさず「音楽は内容だ!音質なんてよくなくていいんだ!」などと言って、話を避けようとする人に出くわすことがある。いやあの、まだ何も言うてまへんがなー。

 とにかく「オーディオ」と聞くやいなや先制ブロック、絶対その世界には入らないぞとばかりに激しく拒絶する。いったい彼らは何を恐れているのだろうか?

 たしかにオーディオというと、べらぼうな値段の製品が多いから、「そんなのとても買えない、死んでも財布の口は開くまい」と思っているかもしれないし、あるいは過去に、いじわるなジャズファンから「キミたち、そんな安物の装置ではジャズの真価はわからんよ。最低1000万はかけないとね。わーっはっは!」な~んて言われて虐められて、悔しい思いをしたとか、そういうこともあるかもしれない。

 気持ちはわかるが、いったん感情的な問題は横に置いといて、冷静に考えてみたまえ。「音が良い」のと「音が悪い」のと、どっちがいい?まさか「音が悪い」ほうを取る人はあるまい。「音が良い」ほうがいいに決まってる。そうだろう。

 誰だって、良い音で聴きたいと思ってる。これがシンプルな答えで、「音が悪いほうがいいんだ」なんてのは詭弁にすぎない。

 そもそも自分が聴いているオーディオ装置は、良い音なのか悪い音なのか、イケテルのかどうなのかの区別がつかない。たいして高級でもないから音が悪いかもしれない、ただ漠然とそう思い込んで、ジョージのごとく不安になってるのではないだろうか。だとしたら、とんでもない思い違いをしている。

 少なくとも音楽をかけて楽しめたり、「ああ、良い音だなあ」と自分で思えるなら、それは紛れもなく良い音の装置なのである。

 (高額=良い音)のイメージは、いまだ根強くあるが、オーディオに金をかければかけるほど良い音がするというわけでもない。むしろ、余計なところにまで高級パーツをつぎ込んでバランスを崩し、音を台無しにしてしまってるマニアがオーディオ人口の大半をしめてるのだ(ここだけの話ですよ)。

 わたしがお薦めするのは、ご存知アップル社のiPod shuffle。わずか5,800円の携帯オーディオプレーヤーだ。これはじつに良い音がする。まさに驚異的といっていい。

 iPodシリーズの出現で、あまりの音のよさにオーディオをやめてしまったマニアも居るくらいである。そこまでいかずとも、iPodをオーディオシステムの一部として使おうという動きは、世界各国で興っている。

 しかし、ここがマニアの悲しい性で、せっかく良い音のする純正イヤホンが付いてるというのに、何万円もする高級イヤホンに交換し、わざわざ音を悪くする人があとをたたない。

 皆さんに良い音でジャズを聴いて欲しいというのがわたしの願いであり、オーディオに興味を持って欲しいと思う反面、オーディオに凝って泥沼にはまり、エゴイスティックになったり、聴くのが苦痛になったりはして欲しくないのだ。マスターのジレンマである。

【収録曲一覧】
1. マイ・フーリッシュ・ハート
2. ワルツ・フォー・デビイ(テイク2)
3. デトゥアー・アヘッド(テイク2)
4. マイ・ロマンス(テイク1)
5. サム・アザー・タイム
6. マイルストーンズ
7. ワルツ・フォー・デビイ(テイク1)(ボーナス・トラック)
8. デトゥアー・アヘッド(テイク1)(ボーナス・トラック)
9. マイ・ロマンス(テイク2)(ボーナス・トラック)
10. ポーギー(アイ・ラヴズ・ユー、ポーギー)(ボーナス・トラック)