作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は先日行われた都知事選について。
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「初の女性都知事! わくわくします」と、都知事選の結果を受けて、嬉しそうに話す女性がいた。保守というより、むしろリベラルな60代。それを聞いて思う。選挙って、わくわくさせたほうが勝つのよね。蓋を開けてみれば小池さん圧勝で、鳥越さんとは接戦ですらなかった。スキャンダルがあろうがなかろうが、頭二つ三つ、小池さんは飛び抜けていたのだ。
それにしても、有権者としては苦しい選挙だった。
「小池さんの中身はオジサン」「女だからといって誰でもいいわけじゃない」と、鳥越さんを応援するフェミニストは少なくなかった。また、性暴力被害者を支援する女性団体が連名で、被害者支援の立場からスキャンダルを掲載した週刊誌を批判し、鳥越さんの立候補に敬意を示す声明文を出した。
セクハラ疑惑報道の後でも、というか後だからこそ、フェミニストによる鳥越さん支持表明の意味を考えさせられた。フェミとして「正解」を求めているわけではないが、今回、「女性の人権にかかわる問題についての対応という点で、残念ながら一致にいたっていません」とTwitterで鳥越さんへの態度を表明した宇都宮さんの姿勢は、誰よりもフェミニストに見えた。フェミとは、人権に固執する思想だ。それでも、そんな宇都宮さんの事務所には、「バカ」「応援しろ」という抗議が相次いだという。答えは一つしかない、という圧力に思考停止させられそうになる。
私自身、野党共闘で選出した大切な候補者ならば、乗りたい。でも、乗り切れない候補者を「勝てます」と差し出され、「ここで勝てないと日本は大変なことになる」と拳を振り上げる力に、気分は沈む一方だった。
印象的だったのは、リーダーシップを重視した人の7割が小池さんに投票したという調査結果だ。新自由主義の風潮のなかで、自己責任論で勝ち上がってきた強い女に、男の有権者も一目置くのだろう。弱者に厳しく、自分だけじゃなく他人にも崖から飛び降りることを強いるような、そんな冷徹な雰囲気も、今の日本の時代を表しているのかもしれない。怖いけど。
もう選ばれてしまったのだから、当面は仕方ない。こうなったら、電柱ゼロにする、ペット殺処分ゼロにする、という公約を守っていただくよう監視したい。保育園の規制緩和とんでもねーよ、と煩(うるさ)く声をあげていくしかない。それにしても、敗戦処理には労力とコストがかかる。トラウマも生まれる。マッチョ政治をやめなくてはいけないのは、野党も同じだ。
※週刊朝日 2016年8月19日号