
日本ボクシングコミッション(JBC)は、試合での選手の負傷に際し治療費を支給するため、「健康管理見舞金(健保金)」として、ファイトマネーから3%程度徴収し、積み立ててきた。いわばボクサーが支え合う互助制度だ。その健保金の“不正流用”疑惑が浮上した。
問題の発覚は3年前。2013年6月末時点で約1億円あった健保金が、半年後の同年末には残高が6千万円弱と激減していたという。疑惑追及の先頭に立ってきたのは名古屋・緑ジム会長の松尾敏郎氏。全国のジム会長で組織する日本プロボクシング協会で副会長などを歴任してきた。協会は再三JBCに説明を求めてきたが、明確な回答は得られてこなかったという。
「健保金は選手の体を守るために使われるべきお金です。選手のためにも、この問題は決してうやむやにはさせない」(松尾氏)
松尾氏はJBC幹部らに対し、告訴も辞さない構えを見せている。
実はJBCでは12年に起きた内粉で、当時の事務局長はじめ4人を解雇し、相次いで地位確認などの訴訟を起こされた。亀田ジムとの間でも、JBCが14年に事実上の国外追放処分としたことで、訴訟沙汰になっている。協会は、JBCが敗訴によって生じた多額の訴訟費用を健保金の中から使ったと見ている。今年6月、協会の追及で回答された残高は、さらに約2200万円に減っていた。
プロボクサーは常にケガのリスクを抱えている。時には脳挫傷や脳出血など重篤で死に至るケースもある。だが、そのリスクゆえに民間の保険に加入できなかったり、保険金の上限が定められたりすることもある。だからこそ健保金は命綱だ。元ボクサーの一人が語る。
「私は試合で腕を骨折し、友人は網膜剥離で長期間治療の末、片方の目を失明しましたが、健保金が払われることはありませんでした」
JBCは疑惑を受け「現場責任者の辞任」「解雇した前事務局長の復職」などで幕引きを図りたい考えだと見られている(8月4日時点)。しかし“消えた健保金”の詳細は不明な点も多い。
命を懸けてリングに上がるボクサーへ、説明責任を果たすべきではないのか。
※週刊朝日 2016年8月19日号