ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌新連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、古舘伊知郎さんを取り上げる。
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いつの時代もアイドルは、「キャーキャー」言われて有頂天になり、さらに輝きながら存在してきました。そして、その「キャーキャー」を煽るのは、MCと呼ばれる言葉のプロたちです。演歌であればイントロ紹介。スポーツであれば実況。DJや場内アナウンス、ウグイス嬢に口上・前説etc……。嘘臭くても、わざとらしくても、彼らの言葉巧みな「煽り」というジェット気流に乗って、アイドルたちは大空へと飛び立ち、観る者は高揚する。それがひとつの「様式美」だと私は思います。
舞台も画面も客席も茶の間も、段差や境目がないように見せることが正義になった感のある昨今。一方で客側の「客意識(金払って観てやってるんだぞ的な)」は、残念ながら無粋な方向に増長しています。「平等意識」や「権利意識」の産物といったら、自分本位な妬み嫉みばかり。そりゃ街中「激安店」だらけになるはずです。
そんな中、古舘伊知郎さんがテレビ(報道はむしろテレビからは断絶された場所)の世界に帰ってきました。もし彼が再び、あの「煽り」を復活させてくれれば、舞台と客席に本来あるべき「壁」を取り戻せるのではと期待せずにはいられません。テレビの喋り手というのは、もっと他人の付け入る隙がないぐらい喋っていたはずです。自分の言葉に覚悟を決めて、過激ぶっただけの「本音」や「ぶっちゃけ」とは違う、一流の言葉を自由自在に操っていました。存在自体が倫理や秩序になっていた徹子さんやたけしさん。テレビ=視覚的異空間をフルに活かした芳村真理さん。紅白の進行を独断で変えた鈴木健二アナウンサーなど。彼らが発信する言葉や画(え)によって、世間の情報・感情処理能力も進化してきました。
果たして古舘さんは、今のアイドルを煽ってくれるでしょうか? とりあえずは12年間のストレスを発散すべく、ご自身を煽りまくっている様子ですが……。
つくづく、この仰々しいケバさこそがテレビだと再認識すると同時に、自らの煽りで覚醒する古舘伊知郎なる男は、稀代の「自家発電型アイドル」なのだと気付きました。女装が1カ月ぶりに化粧をすると、とんでもない厚化粧になって、ひたすら悦に入る現象と同じメカニズムです。
※週刊朝日 2016年7月29日号