ブルース・フォー・ドラキュラ/フィリー・ジョー・ジョーンズ(国内盤)
ブルース・フォー・ドラキュラ/フィリー・ジョー・ジョーンズ(国内盤)
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「朝日新聞系列では、オカルトめいたことを書くのはご法度」という暗黙の掟があるらしいが、オーディオ界では、まさにオカルトすれすれのキワドイ話がいっぱい出てくるので、わたしなんかいつ首が飛ぶかと気が気でない。前々回のCDに塗料を塗ったり、カッターナイフで傷をつけたりで音が変わるのもそうだが、同じデータでもパソコンのハードディスクに入れてるのと、USBメモリーに入れてるのとでは再生音が違う。いやいや、このくらいのことで驚いてもらっては困る。たとえばこんなのはどうだろう?同じレコード、同じオーディオ装置でも、聴かせる相手によって音が変わるってのは。イーッヒッヒッヒ!

 厳密に言うなら、じつはオーディオ装置から出る音は毎回同じでない。同じレコード、同じCDをかけても、一回一回、再生音は微妙に違うのである。これはおそらく、多くのジャズ喫茶店員や、朝から晩までBGMが鳴ってるような場所で仕事をしてる人なら、ウスウス感づいていることだろう。ウスウス感づいてはいるけれど、それを誰かに言ったところで、べつにどうなるってこともないし、せいぜいアタマのおかしい奴だと思われるのがオチなので黙っているだけなのだ。

 そら全然ちゃいます。スピーカーやトーンコントロールに指一本触れてなくても、音がコロコロ変化するのがオーディオというもの。だから、測定器でいくら計測し、キッチリキッチリ合わせようとも、うまくいかないのは当然だし、聴かせる相手によって音が変わるなんてことは、もう当たり前のように起こる。

 原則、ジャズをよく理解し、好意的に聴く相手だと良い音で鳴るし、反対にまったくちんぷんかんぷんで、どこを聴けばいいのかわからないような人に聴かせると、再生音じたいも散漫でつまらないものになる。

 例外として、まったくジャズそっちのけで居眠りしてる人や、ジャズはよくわからんが雰囲気が気に入ってリラックスしてる人が居る場合に良い音で鳴る場合もある。また反対に、強烈なコダワリを持つジャズファン、音にうるさい道場破りみたいなオーディオマニアだと、自分が気に入らないとなるとまるで良い音で鳴らないことがある。これは聴きたいというよりも、聴く気がないというべきなんだろう、きっと。

 こうして現象だけを述べると、まさにオーディオとはオカルトの世界と思われるだろうが、ちゃーんとそれなりにタネも仕掛けもあって、日々音が変化しているのだ。そのタネのひとつが空気中の水分量の問題。

 空気が乾燥してたり、湿っていたりでスピーカーの音が変わるということは、ずいぶん昔から言われていること。「JBLはカリフォルニア産のスピーカーなので、空気が湿っているとコーン紙が水を吸って重くなり音が良くない」などという、もっともらしい話もあったが、じつはこれ、「マイルスがモンクに俺のバックでピアノを弾くなと言ってケンカになった」と同じくらいの真っ赤なウソ。

 どうもジャズファンは、こういう「いかにも!」といった話が大好きなようである。ほんとうは、部屋の空気は乾燥してるよりも適度に湿っているほうが音が良いのだ。熱気ムンムンのライブ会場と、エアコンがギンギンに効いて空気の乾燥したオフィスと、どっちが良い音がしそうか考えてみればいいだろう。

 肝心なのは、その空気中の水分を、「人間が発散している」ということなのだ。人間は、リラックスすると(汗や涙などで)水分を蒸散し、緊張すると蒸散が止まる。つまり、感動すると水分を出し、しらけていると出さない、そういうことである。

 バイオリンやサキソフォンなどのアコースティック楽器は、ある程度演奏して温めてからでないと良い音がしないといわれているが、楽器を温めると同時に、奏者が身の周りに水分を発散し、良い音の出る空気を作ってやることが、良い音が出る条件だという見方もできる。同じ楽器を使っても、あれほどまでに個性の違う音が出るとはジャズという音楽は、まさしくオカルト!奏者が発散する汗や吐息などの“湿った空気”を鑑賞していたのだ。

【収録曲一覧】
1. ブルース・フォー・ドラキュラ
2. トリック・ストリート
3. フィエスタ
4. チューン・アップ
5. オウ!