『ライヴ・イン・トーキョー』サラ・ヴォーン
『ライヴ・イン・トーキョー』サラ・ヴォーン
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Sarah Vaughan Live In Tokyo [Complete Edition] (Jazz Lips [Mainstream])

 女性ジャズ・ヴォーカルの御三家といえば「エラ、サラ、カーメン」のはずだったが、近頃は「ビリー、エラ、サラ」という困った記述も見かける。別格のホリデイを入れてはマズいだろう。おまけに語呂がよくない。カーメンを入れて四天王なら我慢したのだが。来日が早かったのはJ.A.T.P.ツアーで訪れた1953年11月のエラで、コンサートの模様は連載の初回でとりあげた。次が1964年7月のカーメンで、最後が1969年9月のサラだ。本作は1970年12月に続く三度目の来日時に録られた。まずは第一部のすべてと第二部の一部を収めた『ライヴ・イン・ジャパン』(2枚組)が発表され、第二部の残りを収めた『アンコール!』が続いた。CDも2枚構成で、バラ売りには英Mainstream盤(1991年)、2枚組には米Mobile Fidelity盤(1990年)、米Legacy [Mainstream] 盤(1993年)、日Sony盤(1998年)などがある。入手が容易なのは上掲のJazz Lips盤(2009年)だ。

 Disc1には第一部の14曲が収められ、12曲はお馴染みのスタンダード・ナンバーだ。のちにスタンダードになる《ウエイヴ》はさておき《ある愛の詩》は時代を感じさせる。紹介に続く拍手喝采のなかサラが登場、ファスト・テンポの《霧深き日》でコンサートは幕を切って落とす。わずか2コーラスで聴き手を自らの世界に引き込む鮮やかな快唱だ。このあとは情感を込めて歌いあげる長めのスロウと、一気に駆け抜ける短めのファストがほぼ交互する。二、三のMCを除いて58分ブッ通しだ。そのMCがなかなかユーモラスで、2曲目を終えて「みなさん、私をご存じないでしょう。私はカーメン・マクレエです」と言ってのけたり4曲目を終えて「どーもどーも」と感謝したり、大物ぶりを実感できる。欲を言えば、ファストはチト素っ気なくバラードは感情移入が過ぎて、いま一つ説得力に乏しいことだろう。ここまでなら好唱+αどまりで、強いて薦めるほどのものではない。

 しかしここで投げては損をする。第二部は変化に富み文句なしの快唱が連続するのだ。Disc2には第二部の13曲(幕開けのトリオ演奏を勘定すると14曲)が収められ、11曲はスタンダードだ。《ウォッチ・ホワット・ハプンズ》はさておき《雨の日と月曜日は》は時代を感じさせる。ほぼ緩急が交互する構成は変わらないが、活気と寛ぎに満ちた快唱を繰り広げて遺憾がない。ファストでは全員にソロを回したりスキャットで渡り合ったり、鮮やかなばかりか楽しい聴き物になっている。なかでもスロウが断然いい。肩の力が抜け感情移入に過不足がなく《雨の日》は感動的ですらある。この曲からリクエストに応じて即席の歌詞とスキャットで綴る《バイ・バイ・ブラックバード》で終える下りが圧巻だ。アンコールの《トゥナイト》《テンダリー》は軽く流して心地よいクールダウンに導く。同じツアー時にベオグラードで録られた追加曲《おもいでの夏》も好唱だが蛇足に思える。

 ロックが台頭した1960年代、多くの歌手が活動の停滞を余儀なくされた。ジャズ界でも歌手は大衆人気を得やすい稼業だっただけに落差のほどは奏者の比ではなかっただろう。御三家も例外ではなく同年代に見るべき作品はさほどない。サラなら『ザ・ディヴァイン・ワン』(1960年10月/Roulette)と『サッシー・スイングス・ザ・チヴォリ』(1963年7月/Mercury)くらいだ。ともに40歳前後の女盛りだったことを思えば不調とするのは妥当ではなく時代のせいとするほかなかろう。それが証拠に、1970年代の初めにジャズが息を吹き返すと彼女らも大活躍の契機となる快作をものした。エラは『ライヴ・アット・カーネギー・ホール』(1973年7月/CBS)、カーメンは『ザ・グレート・アメリカン・ソングブック』(1971年11月/Atlantic)、サラは本作だ。サラの諸作中、上位五傑は無理にせよ七番手は下るまい。記念碑的な名盤が我が国で録音されたことを誇りに思う。

【収録曲一覧】
[Disc 1]
1. A Foggy Day
2. Poor Butterfly
3. The Lamp Is Low
4. 'Round Midnight
5. Willow Weep For Me
6. There Will Never Be Another You
7. Misty
8. Wave
9. Like Someone In Love
10. My Funny Valentine
11. All Of Me
12. Love Story (Where Do I Begin)
13. Over The Rainbow
14. I Could Write A Book

[Disc 2]
1. The Nearness Of You
2. I'll Remember April
3. Watch What Happens
4. I Cried For You
5. Summertime
6. The Blues
7. I Remember You
8. There's No Greater Love
9. Rainy Days And Mondays
10. On A Clear Day
11. Bye Bye Blackbird
12. Tonight
13. Tenderly
14. The Summer Knows [bonus track]

パーソネル
Sarah Vaughan (vo), Carl Schroeder (p), John Giannelli (b), Jimmy Cobb (ds)

録音場所・年月日
Recorded At Nakano Sun Plaza Hall, Tokyo, September 24, 1973.
[bonus track] Recorded in Belgrade during the same tour.

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