一つは国債利払い費に充てるお金だ。利払いも含めた国債費は、16年度予算で23.6兆円。ただ、マイナス金利の影響で、利払いに使わずに済むお金が年2兆円分あり、これを充てる可能性があるという。田代氏は「本来なら借金の元金返済のお金ですが、それを財源として使うなら自転車操業よりひどい。当面マイナス金利を続けることが前提となる」と解説する。
二つ目は医療や年金といった社会保障費の「公費負担」部分。「公費負担というのがポイントです。この部分で一世帯あたり月額3200円相当を削減すれば、約2兆円分手当てできます」。これで約4兆円になる。残りはたばこ税や酒税で地味に増税して取り戻すという算段だ。さしずめ見えぬ「ステルス増税」といったところだろう。
前出の永濱氏は、14年の消費増税による年8.1兆円の増収分は「全てが社会保障費に使われているわけでなく、手つかずのままのお金が3.4兆円分ある」とも言う。
当面はこうして財源をひねり出すほかないが、消費税は19年10月にホントに増税できるのか。
この「新しい判断」をした張本人の安倍首相は18年9月末が自民党総裁任期。スイス銀行出身の経済アナリスト、豊島逸夫氏の予想はこうだ。
「増税延期は、経済的には負荷を緩めたという意味がある。ただ経済成長に結びつけるには、財政出動によるカンフル剤だけでなく、病巣をえぐるような構造改革が必要。これは数年がかりの仕事で簡単に結果は出ない。日本経済が19年秋ごろに消費税10%に耐えられるほど良くなっているかと言えば、ノー。消費増税はたぶん無理です。安倍氏も負け戦をするとは思えない。18年には『私も任期ですから失礼します』と投げ出すでしょう」
潜在成長率はじりじりと下降し、いまやマイナスの一歩手前。経済底上げは一過性の策でなく、やはり中長期を見据えた構造改革が不可欠だ。ところが、今回の取材で驚きの事実を耳にした。
衆議院事務局によると、衆議院で戦後、任期満了まで全うして実施した総選挙は1976年の1回。ほかの25回はみな解散によるもので「外国人に言うとビックリですよ」(田代氏)。信任を得た4年間すら全うせずにコロコロ変わっては、未来を見据えた構造改革もへったくれもない。(本誌・鳴澤 大、亀井洋志、小泉耕平)
※週刊朝日 2016年6月17日号