「カシアスの名前をもらったおかげで、いいときも悪いときも名前に恥じないボクシングを、いや、生き方をしようと思えた」
若いころ、静岡・伊豆での合宿中に、来日していたアリと拳を合わせる機会があったという。
「あの人のボクシングを一言で言うなら『速い』。当時の俺は、自分の速さにうぬぼれてもいたが、あの合宿以来、真剣にロードワークに取り組んだ」
その後、日本で再びアリと会った際、「俺はもう、名前を変えたんだ。おまえも『カシアス』の名前をやめてくれ」と言われた。「俺はこの名前に力をもらっているんだ。やめないよ」と答えたという。
「あの人の生き方には共感する。彼と同様、俺も肌の色が黒いことで差別を受けた。ベトナム戦争の徴兵に反対した気持ちも、俺は米兵の父を朝鮮戦争で亡くしているからよくわかる」
いつだったか忘れたが、アリがあいさつ代わりに肩をなでてくれた感触を今でも覚えている。
「やさしくて、あったかい人だった」
※週刊朝日 2016年6月17日号