「力んでうまくいったことがないって、経験から学んでいるからじゃないですか(笑)。20代前半の頃は、“こうあるべき”みたいな理想を追いかけて、力んで、毒を吐きまくってた時期もあったんです。でも、人を批判したり批評したりすると、結局自分が傷ついて、荒んでいくんです。いろんなことを経験しないと、想像力って培われないんだと思います。他人が転んでいるのを見ても、どういう痛みなのかはわからない。自分が転ばないと」
白井晃さん演出の舞台「レディエント・バーミン」は、吉高由里子さん、キムラ緑子さんとの3人芝居。昨年2月に上演され、高く評価された「マーキュリー・ファー」と同じ、フィリップ・リドリーの戯曲だ。
「僕が芝居をする理由は、あくまで自分のためです。いくら作品が評価されたからといって、日和ってしまっては、かえって評価してくださった人を裏切ることになると思う。いいものを作るためには、自分たちがやっていることに納得するしかない。評価してくれる人のことは関係ないという意味ではなく、その人たちのことを視界に入れつつも、そこを突き抜けないといけないと思うんです」
愛読書は梶井基次郎の『檸檬』と室生犀星の『抒情小曲集』。同じ本を繰り返し読む。「ナイフのやうな芽が/たつた一本/すつきりと蒼空につつ立つ」という詩を読んで、「ロックだなぁ」と思う。そのとき、言葉はメロディーを伴って耳に響く。
※週刊朝日 2016年6月10日号