ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる、ジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。最近の犯罪捜査の方法について言及する。
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自分がいまどこにいるか、警察が好きなときにGPS情報を取得できたとしたらあなたはどう思うだろうか? そんなSFのような未来が現実になりつつある。今夏発売の携帯電話の新機種の一部に、捜査機関が本人に通知することなく、GPS(全地球測位システム)情報を取得できる機能が盛り込まれていることを5月17日付朝日新聞が報じた。
これは2015年6月に総務省が「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」を改定し、捜査機関は裁判所の令状があれば携帯会社が本人へ通知しなくても携帯電話のGPS情報を犯罪捜査に利用できるよう変更したことを受けての措置だ。
このガイドライン変更まで、携帯電話のGPS情報を犯罪捜査に利用するには通信事業者が捜査対象者へ通知する必要があった。GPS情報を捜査機関が取得する場合、「この端末の位置情報が検索されようとしています」というメッセージを該当端末の画面に表示し、端末の振動と共に音を鳴らし、利用者が気づくようにしていた。この仕様だと疑われている容疑者に位置情報を検索していることが伝わってしまい、捜査が困難になるため、警察庁が総務省にガイドラインの改定を要望し、実現した。
通常の強制捜査──たとえば家宅捜索の場合には捜査される際、初めに令状を見せられるので自分が不利益な処分を受ける、もしくは受けたということがわかるが、この機能を利用してGPS情報を取得された場合、だれがいつ、どんな捜査のために位置情報を取得したのか、そうしたことが闇に葬られてしまう可能性が出てくる。
テロ対策のため、警察に大きな権限を持たせている米国であっても、プライバシーに厳格な州ではGPS情報を取得した人には事後的に通知する対応や、情報を取得する期間を制限するといった立法が進んでいる。つい先日、FBIが犯罪捜査の目的で、アップルにiPhoneのロックを解除する機能をOSに実装することを要求したが、アップルが拒否し、グーグルやフェイスブックがそれを支持するといった騒ぎも起きた。
一方の日本では捜査当局と端末メーカーやキャリアが争った形跡がなく、法改正ではなくお役所のガイドライン変更で利用者のプライバシーに関する大きな変更が行われてしまった。犯罪捜査のために一般国民のプライバシーはどこまで犠牲にしていいのか。このような根本的な問題を国会など公開の場でもっと議論する必要がある。
※週刊朝日 2016年6月3日号