マイルスはなぜ3枚組になるほど演奏しつづけたのか
Miles Davis In Regensburg (Sapodisk)
マイルス晩年のライヴには、しばしば3枚組という長大なセット物があるが、年齢を重ね、体力も低下し、さらには数々の持病を抱えていたマイルスのことを思えば、このアンバランスはにわかに理解しがたいものがある。過酷なツアー、しかも長時間のステージと、これはいったいどのように解釈すればいいのだろうか。
少なくともワタシが思うに、晩年のビル・エヴァンス同様、音楽の真ん中に身を置くことだけが安心できる唯一の場所だったのではないか。マイルスの場合、とくにその感を強くする。さらに推察すれば、身体の至る所にガタがきていた上に、それは常に痛みをともなうものでもあった。薬で抑えたとしても限度がある。しかしステージに立ち、観客の前で演奏している瞬間は、少しは苦痛も和らぐような気がする。故にマイルスは最終的にステージに立つことでしか「喜びを感じる」ことができなくなっていた、と想像する。
以上のような理由から、80年代後期から最晩年にかけてのライヴは、時に音楽以外の感情が入り込みすぎて冷静かつ客観的に聴けないことがあるが、それでもなおマイルスがすばらしいのは、手を抜くことなく、「なにもそこまで」という勢いと集中力でトランペットを吹き、バンドをまとめ上げていく、リーダーとしての矜持を失わなかったことだと思う。
このライヴは、音質それなりに良好のライヴで、87年11月7日のドイツ公演が前述したように3枚のディスクに収録されている。オープニングからオープンでバリバリ吹きまくるマイルスの雄姿にほれぼれする。
さて前回お伝えした拙著の目次の後半ですが、以下のような構成になっています。
第4章:オン・ザ・コーナー~
レッド・チャイナ・ブルース/ブラック・ヒーローの苦悩/イングリッシュマン・イン・ニューヨーク/
シタールとシュトックハウゼン/誰が喧嘩を売ったのか
第5章:プリンス・オブ・ダークネス~
音楽は麻薬だ。飽きるまで求めてしまう/フット・フーラー/スリッカフォニックス/
デイヴ・リーブマンの回想/スライの悪態/息子たちの反乱
第6章:ヒー・ラヴド・ヒム・マッドリー~
海賊黒ひげ参上/日本とオルガン/歓喜とブーイング/カリプソ・フレリモ/第3のギタリスト/
マイルスの涙/ミッシングリンクとしての第4のギタリスト」
第7章:傷だらけの帝王~
事件としてのエレクトリック/傷だらけの帝王/息子の献身」
第8章:アガルタの凱歌~
マイルスのメッセージ/終焉へのプレリュード/「Fuck that shit!」/1975年9月5日
以上に加えて、巻末資料として大量の関連アルバムの紹介が入ります。6月にワニ[PLUS]新書から出る予定です(タイトルは未定)。よろしくお願いします。
【収録曲一覧】
1 One Phone Call/Street Scenes-Speak
2 Star People
3 Perfect Way
4 The Senate/Me And You
5 Human Nature
6 Wrinkle
7 Tutu
8 Movie Star
9 Splatch
10 Time After Time
11 Full Nelson
12 Don't Stop Me Now
13 Carnival Time
14 Tomaas
15 Jean Pierre
16 Burn
17 Portia
(3 cd)
Miles Davis (tp, key) Kenny Garrett (as, fl) Robert Irving (synth) Adam Holzman (synth) Foley (lead-b) Darryl Jones (elb) Ricky Wellman (ds) Rudy Bird (per)
1987/11/7 (Germany)