シンゲン・ライヴの完全版&スイングジャーナル休刊について
Complete Sing In Singen (Sapodisk)
最初が『シング・イン・シンゲン』、次が『イン・ザ・タイム・オブ・ダークネス』と進化をつづけてきた有名ライヴが、ついに全曲収録のコンプリート盤となって帰ってきた。その名も『コンプリート・シング・イン・シンゲン』と、わかりやすい。
新たに追加されたのは、そもそもオープニングで演奏されていた《パーフェクト・ウェイ》と、後半の《タイム・アフター・タイム》の2曲。曲数にしてわずか2曲とは微増だが、演奏時間からみると微増ではなく、とくに《タイム・アフター・タイム》が発掘された意義は大きい。
さて肝心の内容ですが、音質は極上、演奏も強力、さらにはフォーリーとリチャード・パターソンがファンクなコーラスを聴かせる《イン・ザ・ナイト》が収録と、まったく弱点のないライヴについては、拙著『マイルスを聴け!Version8』の1030ページをご参照いただくとして、以下はスイングジャーナル休刊の報に接して思ったことを書きたいと思います。
雑誌の休刊廃刊がつづいています。ヌード満載の雑誌も次から次へと姿を消しています。しかし、ヌードが好きな男性が減ったわけではありません。それと同じことで、ジャズを聴く人間が急激に減少したわけではありません。雑誌を発行していた出版社を核とした構造的経済的環境に負うところ大であると思います。
そこで今回のスイングジャーナル(SJ)の休刊ですが、SJに限らず、音楽雑誌がダメになっていっているのは、ネットやその他の外的要因が20%、残りの80%は内的要因によるものと考えます。つまり、読むべき記事、おもしろい文章が載っていないから、支持されないのです。あるいは外的要因が占める比率はもっと大きいのかもしれませんが、少なくとも編集部の人間は、「読者の支持を得られる記事を載せることができなかった」ことを優先的に考えるべきだろうと思います。
さらにもう一点。いずれは紙媒体から電子書籍(というのでしょうか)への移行も加速するかもしれません。しかし、それが紙であれネットであれ、あるいはもっと別の新しい何かであれ、そこに文字がある限り、最終的には「文章のクオリティ」が勝負になっていきます。言うまでもないことです。文章力といいかえてもいいでしょう。現在、多くのサイトが、支持を得ているようで得ていない元凶は、そのサイト総体としての文章力が稚拙であることに要因があると考えます。
以上のように考えてくると、送り手側のやるべきことが明確になってきます。クオリティの高い文章を載せ、書き手は、自分にしか書くことのできない文章を書くことに努力すればいいのです。つまりは、当たり前のことを当たり前のこととしてやればいいのです。しかし、いつしか、その当たり前のことが忘れられてしまった。
スイングジャーナルをはじめ、音楽雑誌に対して読者が「つまらない」と思う対象は、不運にも評論家が書く文章に向けられることが多い。しかもそれは当たっている。そのことに気づかず、レコード会社の準社員のような原稿を書き、本来レコード会社の担当者がやるべきこと(新作のインタヴューとか)を「自分の仕事」と勘違いをし等々、挙げればキリがありませんが、ともあれそのような悪循環が音楽雑誌の衰退・休刊を招いた要因であることはまちがいありません。そして最後にもう一度、いっておきたいと思います。ヌードが好きな男性が減らないように、ジャズが音楽が好きな人間も減らないのです。
【収録曲一覧】
1 Perfect Way
2 Star People
3 Hannibal
4 The Senate/Me And You
5 Jilli
6 Human Nature
7 Time After Time
8 In The Nigh
t 9 Wrinkle
10 Tutu
(2 cd)
Miles Davis (tp, key) Kenny Garrett (as, fl) Foley (lead-b) Kei Akagi (synth) Richard Patterson (elb) Ricky Wellman (ds) Erin Davis (per)
1990/7/14 (Germany)