春に咲く花のように可憐な皇太子妃が誕生したのは、昭和34年4月10日のこと。ご成婚から57年。現在発売中の『美智子さま 和の着こなし』(朝日新聞出版)から、美智子さまがお召しになった梅や椿など日本文化を象徴する柄のお着物を紹介します。
まずは、昭和37年11月。マニラ・マラカニアン宮殿の晩餐会場に大統領と向かう場面。美智子さまは、金色のぼかしに載せた紅梅白梅が艶やかに咲き競う、手描き友禅の訪問着をお召しになっている。この着物は、日本画家・前田青邨の絵を元にしたと見られるもの。
昭和39年5月のメキシコ訪問で大統領と面会した際、美智子さまは薔薇を染め抜いた手描き友禅の訪問着に、金地紙の意匠を配した袋帯で、洗練された着こなし。
メキシコ大統領が主催する歓迎昼食会では、白上げの友禅染や金彩、金駒刺繍で、藤が描き出されたやさしい色のお着物をお召しの美智子さま。一輪の花のような姿に、メキシコの人びとは「ボニータ(きれい)」と声を上げた。
そして、メキシコ市の国立芸術院で民族舞踊を鑑賞した皇太子ご夫妻。菊を中心に秋草を躍動的に表現した、本手描き友禅の白地の訪問着。桐の意匠が鮮やかな朱色の帯に、金の帯締めと大ぶりの帯留めを合わせた。和の美しさが引き立つ着こなしだ。
また、同年12月のタイ訪問では、バンコクの王宮に近い寺院の前で。空を映したような青地に白椿が咲いたお着物をお召しに。淡色の帯を合わせた清々しい装い。一般的に、冬に咲き誇る椿は、11~4月と咲く期間が長いため、着物には意匠化された柄が多く見られる。
ここ最近では、雨となった平成26年秋の園遊会で、野毛切箔柄で、白と銀色の西陣織の袋帯が、涼やかな存在感を見せる。白菫(しろすみれ)色の地に、手描き友禅と刺繍で松に橘を表現したお着物を取り合わせ、帯締めとバッグに金色を配した気品のある装いだった。
※週刊朝日 2016年4月22日号