作家・元AV女優鈴木涼美(c)朝日新聞社
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作家・元AV女優
鈴木涼美
(c)朝日新聞社
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 ネット上で繰り広げられる炎上や公の場での暴言。分別があるはずの大人が感情にまかせて罵倒し、冷静な議論以前に、目につくことがあれば、すぐ攻撃を開始する。収束には平謝りと撤回がお決まりだ。元AV女優で作家の鈴木涼美氏は「薄っぺらい平等社会主義」を掲げる日本の特性だと分析する。

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 ベッキーと「ゲスの極み乙女。」のボーカル・川谷絵音の不倫騒動が報じられた際は、ふたりを批判するネットの書き込みが溢れました。私は読みながら、待てよ、と。日本人ってそんなに道徳好きでしたっけ?『失楽園』の小説も映画も大好きだったはずでしょう、と思いましたよ。

 みんなズルいのは、福山雅治と結婚して幸せ絶頂にいる吹石一恵や木村拓哉の妻である工藤静香を、たたくことはしないんです。「上の階層」にいる人たちが、転ぶのをじぃっと待って、いざ「生贄が来た」とばかりに襲いかかる。

 私は小学校5年生から1年半、父の仕事の関係で英国で暮らしました。上流階級と労働者といった階級社会ですが、多くの人は与えられた環境の中で幸せを見いだし生きていくんです。

 米国は貧しい家庭で育った人間が努力で成功を勝ち取ることが可能な社会。どちらの国も、個人の「生き様」を尊重し納得している。

 一方で、日本は「階級」「差別」といったヒエラルキーの存在を隠したがる。大人たちは全員平等のように振る舞いますが、実際には、美男美女で優秀で、お金にも恵まれて暮らしている人が存在するのを知っている。それを見て、「ズルい」と考えるんです。日本の薄っぺらい、平等社会主義が、日本人の歪みを生み出しているように思います。攻撃する人たちも、批判したところで、満たされるはずがない。いっそ、負の感情を歌や曲、絵を創作するなど芸術に昇華するくらいのエネルギーが欲しいですよね。

週刊朝日 2016年4月22日号