ウンブリア・ジャズ 89
ウンブリア・ジャズ 89
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陰影に富んだマイルストーンのしぶき
Umbria Jazz 89 (Sapodisk)

 今回は余談からです。去る6月19日、ブルックリンでフェスティヴァルが開かれ、ビッチェズ・ブリュー・リヴィジテッドというグループが出演しました。コルネット奏者のグレアム・ヘインズがリーダーをつとめる、マイルス・トリビュート・バンドのひとつですね。ギターにジェームス・ブラッド・ウルマーが参加しているところがミソなのですが、このライヴがCDRとなって約10日後に到着、「さあ聴くか」と思いはしたのですが、なかなか聴く気になれない。マイルス・イン・インディアやチルドレン・オン・ザ・コーナーのふがいなさにあきれて、「まあ似たようなものだろう」と思ったわけです。

 で、この文章を書いているのは7月5日ですが、まだ聴いていません。次回このコーナーで紹介することになっているので、そろそろ聴かなければいけないのですが、「うーむ」というところで二の足を踏んでいるビッチェズ・ブリュー者ではあります。

 さて、本物のマイルスのご紹介といきましょう。1989年7月14日、イタリアはウンブリア・ジャズ・フェスティヴァルにおけるライヴですが、全部で5曲収録、しかも1曲目がマイケル・ジャクソンの《ヒューマン・ネイチャー》ということから察しがつくように、これはラジオで放送された音源です。したがって音質に問題はまったくなく、「2枚組は長いよキツいよモウやめて」とお嘆きのマイルス者にとっては、ほぼ理想的なCDなのです。

 最大の聴きどころは、どのライヴ盤にも入っているというわけではない《ジョ・ジョ》でしょう。マイルスが最晩年に交際し、結婚まで約束していたとされる女性画家ジョー・ゲルバードの愛称をそのままタイトルにしたこの曲は、おそらくマイルスの生涯を代表する名曲になるのではないかと思います(現時点では、まだそのような認識は薄いのではないかと)。

 そして《ポーシア》に、やはり泣けます。この厳かにして孤高の表情は、もうなんというのでしょうか、マイルス・デイヴィスとしかいいようがありません。とくにこのヴァージョンでは、音がいいこともあって、マイルスの陰影に富んだマイルストーンのしぶきまで見えるようです。しかしこのソロって、『スケッチ・オブ・スペイン』のころとまったく変わっていません。生涯をかけて変わりつづけた男は、しかし生涯をかけて不変でもあった。その不変のトランペット・サウンドを、ぜひぜひ多くの人に浴びていただきたいと思います。

【収録曲一覧】
1. Human Nature
2. The Senate / Me And You
3. Jo-Jo
4. Tutu
5. Portia

Miles Davis (tp, key) Rick Margitza (ts) Kei Akagi (synth) Adam Holzman (synth) Foley (lead-b) Benny Rietveld (elb) Ricky Wellman (ds) Monyungo Jackson (per)

1989/7/14 (Italy)