「ばっちゃん、腹減ったー」
広島城を見下ろす広島市営基町高層アパート。日が暮れるころ、14階の2DKの部屋に、剃り込みを入れたり派手なチェーンネックレスをつけたりした少年たちが集まってくる。
「おかえりー」
この部屋で一人暮らしをする中本忠子(ちかこ)さん(82)が、少年たち一人ひとりの顔を見ながら笑顔で応える。久しぶりに顔を見せた子には「ちいと痩せたが元気にしとったんか」と声をかける。
9~22歳の子どもや若者が1日3~10人ほど訪れ、食卓を囲む。食べ盛りの少年たちはできたての親子丼や煮物を勢いよくかきこみ、次々におかわりの手を伸ばす。おなかが満たされると、お茶を片手に中本さんとおしゃべりし、自宅のようにくつろぐ。
「ここに来る子いうたら、親が薬物依存症、刑務所を出たり入ったり、虐待、ネグレクト……まず普通の家庭の子は来んけんね。食べることは毎日のことじゃけ、ばっちゃんは盆も正月も休めんのよ」
中本さんはそんな生活を34年間続けてきた。