マウンテン・ワイナリー・コンサート
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今日のマイルスはオープンでかっこいいフレーズを多発
Mountain Winery Concert (Sapodisk)

 暑いですね。と、思わず時候の挨拶から入りましたが、こういうイントロダクションは、紙の媒体では書くことができませんでした。ネットだからこそのご挨拶ですね。ちなみにこの原稿を書いているのは、まもなく火曜日になろうかという深い時間帯、そしてアップされるのが木曜日ですから、急に涼しくなったり寒くなったりしない、そこでついつい「きょう限りのこと」を書いてしまう癖がつく。それが「ネットで書くこと」の怖さかもしれません。

 しかしマイルスの音楽だけは、年代やスタイルを問わず、外がどんなに暑かろうが寒かろうが、不変です。よく「気分によってノレない」という声を聞きますが、マイルスに関しては、そのようなことはないと思います。なぜならマイルスの音楽は、聴き手の気分に左右されるものではなく、聴き手の気分を左右してしまう類の音楽だからです。このあたりの理論的展開、いまひとつツメが甘いのですが、こういう「甘さ」を放置したまま先に進んでいけてしまうのも、ネットの怖さだろうと思います。

 さて今回ご紹介するのは、1989年6月18日、ニューヨーク州サラトガにあるワイナリーでのライヴです。サラトガはニューヨーク市内から車で数時間の避暑地ですが、夏ともなると盛んにフェスティヴァルが開かれ、ぼくも何度か行ったことがあります。マイルスも一度か二度、サラトガ・スプリングスの野外ステージで聴きました。

 1曲目は、《イン・ア・サイレント・ウェイ》から《イントルーダー》のメドレー。ぼくはこの展開、大好きです。もちろん《ワン・フォン・コール/ストリート・シーンズ》も好きですが、よりマイルスらしいといいますか、威厳に満ちていると思うのです。次に気になる音質とバランスですが、ややドラム音が硬いきらいはあるものの、かなり上級のオーディエンス録音といっていいでしょう。ぼくは推薦します。もっともこの種のライヴ音源に関する音質評価ほどむずかしいものはなく、そもそも「良い・悪い」で判断するものではないと思うのですが、いちおうの目安のようなものとして受けとめてください。

 さらに指摘すべきは、マイルスのトランペットでしょう。このライヴでは、ミュートよりオープンのほうが、かっこいいフレーズを多発しています。じつは昨今はミュートとオープンによる出来不出来に注目しながら聴いているのですが、バラードは別格として、晩年のマイルスは、どうやらオープンのほうが新しいフレーズの頻出回数が多いように思います。ただし、まだ研究途上なので結論めいたことはいえませんが、もはやそういう楽しみの境地に至った自分が愛おしくてなりません(変態か!)。

【収録曲一覧】
1 In A Silent Way-Intruder
2 Star People
3 Perfect Way
4 Hannibal
5 Jilli
6 Mr. Pastorius
7 Human Nature
8 Time After Time
9 Tutu
10 Jo-Jo
11 Don't Stop Me Now
12 Carnival Time
(2 cd)

Miles Davis (tp, key) Kenny Garrett (as, ss, fl) Kei Akagi (synth) Adam Holzman (synth) Foley (lead-b) Benny Rietveld (elb) Ricky Wellman (ds) Monyungo Jackson (per)

1989/6/18 (Saratoga)